2021.08.02 Mon.

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  加賀百万石、兼六園金沢21世紀美術館
 2015年の北陸新幹線開通以来、東京からの距離も近くなり、新旧の文化施設、豊かな食文化が訪れる人々を魅了し続ける金沢。そこには、全国の酒呑みにこよなく愛される日本酒「手取川」、「吉田蔵」をつくる吉田酒造店がある。
 実は北陸は、電力の観点から、なかなかお客さまの増えにくいエリア。地元には大手電力の豊富な水力発電があり、電気代の価格勝負では東京の電力会社が圧倒的に不利の中、なぜ1870年創業の老舗酒蔵はみんな電力を選んでくださったのか。
 若き7代目吉田泰之さんと、奥さまの麻莉絵さんにも同席いただき、お話を伺った。
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ーまずそもそも、お値段的にもメリットがない、むしろ高くなるのに電気を切り替えてくださった理由から伺ってよいでしょうか?
吉田 もともとは会長の時代から、別の新電力さんに切り替えていたということもありました。そして昨年から僕が社長になり、僕はかねがね酒づくりの上で、日本酒業界が「電気を使うようになっているな」ということを危惧してきました。
 もう一度、日本酒を成立させてくれる「自然と共存できるような酒づくりに戻したい」という気持ちを持っていたんです。
 いろいろなところで少しはそういう話をしたり、ちょっとした行動もしていたんですが、本格的なことはできないでいました。妻が昨年から会社に入って「しっかりかたちにしないと」ということで、いろいろ調べてくれて、その時にみんな電力がヒットしたというのが経緯です。
ーお酒づくりに電気はたくさん必要なのでしょうか?
麹室
吉田 相当使います。年間で約80万キロワットほど、それは金額にすると、百万の単位を超えていきます。
 酒づくりは寒い時期に行いますが、作業をする部屋は空調を効かせ、温度管理を徹底しています。寒くする部屋もあれば、暖かくする部屋もあります。夏は夏で、搾った後のお酒を低温で保管し、品質管理を徹底しています。そのため、一年中お酒のために、冷房や暖房をかけっぱなしという状況です。
 昔はそうではなくて、自然のサイクルの中にきれいにはまっていたんです。お米を収穫して、外が寒くなったら酒づくりをはじめて、暖かくなれば酒づくりをやめて米づくりをするという循環がありました。昔はほとんど冷暖房を使わずに、それができていました。
 今も昔にように冷暖房を使わずに酒づくりをすることはできますが、現在主流となっている高品質かつ、繊細で美味しいお酒というのは、なかなかできません。より高い品質を求める中で、多くの酒蔵が温度管理を徹底するようになったのです。
ーナチュラルなお酒づくりを標榜されています。
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吉田 最近は石川県でも、雪がまったく降らない冬があるようになりました。これは明らかに気候変動が要因です。そうなると温度管理をしていかないと、きれいなお酒はつくれなくなってきています。
ー酒づくりを通じて環境の変化を如実に感じるようになり、なんとかこの環境を守らないといけないと思われた?
吉田 僕はここで生まれ育ちました。20年くらい前は毎年冬になると、毎日のように雪が積もり、その雪で遊んでいました。雪掻きなど大変なこともありましたが、季節感があって楽しかった記憶があります。
 でも最近は雪が少ない年が多く、降ってもすぐ消えてしまうのを目の当たりにしていて「これはすごくヤバい」と、危機的な印象を持っています。
 夏も以前は、建物全部の扉を開けておけば風通しがいいので、それだけで「ちょっと暑いかな」くらいでやっていけました。それが最近は金沢でも40度近くになって、我慢どころか、エアコンをつけていないと生活ができません。そういうことから、環境が「次のステージに進んでしまったな」ということを感じています。ですから、できるだけ「今の僕らの世代で改善できるところをしていかないと」と、考えています。
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ーそれは日本酒のネットワークの中で、多くの方々が感じられていることでしょうか?
吉田 実は、あまり感じてもらえないことが多いんです。6、7年前から、全国の酒屋さんにはこういった話をさせていただいてますが、「自然とかそういうこともわかるけど、まずは美味しい酒をつくることを目指しなさい」と言われることが多い。皆さんに認めてもらえる美味しいお酒が、まだまだできていなかったということなのかもしれませんが(笑)。
 美味しいお酒をつくるのはもちろんなんですが、僕たちの世代だけですべてのエネルギーを使い切ってしまうというのは、未来に繋がっていきません。自然があってこその酒づくりですし、その中でできることを、今から試行錯誤していかないといけないと思ってきました。
ーしのごの言わずに「美味い酒を、まずつくれ」と、、
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吉田 でも、例えば同じ30代、40代のメンバーと話す方が、そういったことをわかってもらえることが多くあります。
 僕はもともとアウトドアが好きで、友人もパタゴニアで働いていたりしています。彼らは共感をしてくれて、「持続可能な世界に向けてやっていかないと」と言ってくれます。でもそれは、ごく一部からの反応でした。
 実はうちも「作業着としてパタゴニアを使いたい」と思い、僕からもお願いをして、サンプルまでもらって検討させていただいたことがあります。ただ地元でも、地域の特色ある生地をつくっている企業もあったので、そこは地域を巻き込みたいと思って見送りました。パタゴニアさんはもちろん素晴らしいんですが、なるべく地元の中でそういった取り組みをつくっていきたいと考えています。
 ちなみに、今回みんでんさんに切り替えたことで、その友人からは「うちと一緒ですね」という連絡がきました(笑)。
ーなるほど。それにしても環境に関しての話は、どうしても「世代の話」になってしまう?
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吉田 やっと昨年、菅総理が脱炭素を言い出して、それが国全体の取り組みとしてメディアに出てくるようになりました。そうして上の世代の方々も、徐々に「今後企業としてこういうことが必要なんだろうね」という風になっていきました。
 しかし最近のトレンドとして、日本酒業界ではその酒質の関係で冷蔵商品が増えていて、それはうちでも例外ではありません。
 そして酒蔵がそうなると、お酒を扱う酒屋さんも送られてきた酒質を守るために冷蔵管理を徹底してくださるようになります。つまり総体的に冷蔵庫が増え、使う電気量が格段に増えてきたように感じます。
 私たちができることとしては味わいは進化させつつ、要冷蔵ではなくても美味しいお酒を研究することではないかと思います。
ー冷蔵や冷凍技術が進化して、ハウス栽培もあり、野菜や果物でも「季節のモノ」がわかりにくくなっていると思います。それと似たようなことが、お酒の世界でも起きている、、?
蔵の横の田んぼ_2020夏

蔵のすぐ横にある田んぼ、2020年夏の様子

吉田 仰るように、昔のお酒にはもっと季節感がありました。今は例えば、年がら年中「しぼりたて」みたいなフレッシュなお酒が呑めるようになってきています。逆に、昔ながらのクラシックなスタイルをやっていると、波に乗れず、淘汰されて生き残っていけないくらいの厳しさもあります。
 だから、今までよりは電気の使用量を減らしつつ、同業者の方々にも情報発信をして、仲間を増やす。そうやって業界全体で、「冷蔵するのが素晴らしい」というのとは違う流れも、つくっていきたいです。

 

酒蔵の電力消費量が増えたのには、消費者とトレンドの影響もある。美味しいお酒のために電気を使うのなら、より
環境負荷をかけない電気を選ぶ。老舗酒蔵7代目の頼もしいお話は全3回、次回は今週木曜公開です。お楽しみに

 

(取材:平井有太)
2021.6.17 thu.


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