2020.09.23 Wed.

  ムハマド・ユヌスさんは持続可能な未来に向け、根本からのシステムの転換、私たちの意識の変革が必要と説く。気候変動や富の集中は地球の滅亡を招くだけであり、このパンデミックは、今私たちが置かれている危機について教えてくれる絶好の機会であり、これを機に今まで社会システムと別れるべきと言う。
 ENECTではユヌスさんの考えに感銘を受け、同意しながら、もう少しそういった考えの根本に何があるかを探った。
 「貧困の解消」を掲げながら、現在世界的議論が起きていて、実践するケースも出てきたベーシックインカムには異論を唱えるユヌスさん。少々意外であり、その理由に興味を持つと、そこには繰り返し仰る「人間は生まれながらにしてクリエイティブであり、起業家だ」という視点があった。
 では、個人にも国にも、そしてエネルギーにとってもキーワードとなる本当の意味の「自立」とは、何だろう。
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ー少し哲学的な質問をさせていただきます。
 現代社会で生きていると、私たちが意識せずともしてしまう「依存」からの脱却も、難しい課題です。自己発見、自己実現を念頭においた「自立」を実現するため、私たちが身に付けなければいけない素養はなんでしょう?
ユヌス その問題に関しては、私はいつも教育の観点から話すようにしています。
 既存の教育システムは、生徒を依存体質に育て上げる傾向があります。生徒を一人の人間として扱わず、子どもが思考停止したまま歳だけを重ねてしまうことが問題です。
 そもそも社会が教育に求める機能が、子どもが「いい教育を受け」、「いい企業に就職する」ということだけに集約されてることが問題です。「未来」を、仕事の観点から捉えることしかできず、人間の視点を持っていないことに原因があります。
 教育は、私たちが依存に向かう最初のステップです。これを企業に置き換えて、私がその会社に依存していたとします。すると常に、誰かからの指示を待つことが当たり前になります。つまり私の人生が自分自身ではない、他の存在にかかっていることになるのです。
 そんな状況と、自分自身にやりたいことがあり、会社や自分以外の他人に指示されることではない、やりたいことをやりたい時にやる生き方は大きく違います。
 私はいつも子どもたちに、「起業家として物事に対峙すること」を伝えています。私自身もよい職探しのために生きているのではなく、起業家として生きています。
 人間は本来クリエイティブな、創造性溢れる存在です。
 しかしその創造性は就職と共に失われます。仕事は仕事である限り、上司からの指示によって進められます。指示に背く選択肢がない状態は、依存の一つの形態です。人間は本来そのような枠組みの中で生きる存在ではないのです。人間とは独立し、創造性溢れる存在であり、クリエイティブであることと、自らの力をもって社会に貢献することに喜びを感じます。
ーまるで日本の教育についてご存知で、その問題点について話されているような気がします。
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Photo: Yunus Centre/Nasir Ali Mamun

ユヌス 似たような教育システムの問題は世界中にあります。これは、資本主義の社会と密接に関係しています。資本主義がつくり出す社会では、ごく少数の起業家が存在し、それ以外の人間は仕事として起業家の元で働くことになります。まるで、他に選択肢はないかのようです。
 人間社会とは本来、そうではないんです。私の考えでは、あらゆる人間は生まれながらにして起業家です。他人のために働く必要はありません。その観点から、この社会は今、間違った状態で成立してしまっています。教育システムが職探しだけをする子どもを育てるのではなく、自らの人生を探す子どもを育ててくれることを切に願っています。
ーみんな電力は、そこで働く皆がクリエイティブでいられることを推奨し、ユヌスさんが仰るような、人間として働ける環境が整っている組織です。
ユヌス 素晴らしいことです。それはいいことを聞きました。ありがとう。
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ーみんな電力が提供する価値の一つは、「選ぶこと」です。日本には長い間自分が使いたい電気を選ぶ選択肢がありませんでしたが、今や電気も産地や生産者で選ぶことができるようになりました。
 自ら選び、掴み取ることの価値は何にあるでしょう?
 ユヌスさんは、今回のパンデミックは私たちにとって新しい世界の再構築のチャンスであるということを再三語られています。市民一人一人があらかじめ用意された答えから解放され、自らの責任で選択を積み重ねる社会は、何をもたらしますか。
ユヌス 今回のパンデミックは、古いシステムが機能不全であることを証明し、否応なしにストップがかかりました。ですから、これをそのまま再開させてはいけません。古いやり方と同じ方向ではなく、これまでにないやり方と方向に転換する必要があります。
 古い方向性は社会を滅亡に導きます。このままでは2、30年後には地球がなくなってしまいます。一番の理由は気候変動、富の集中、他にもAIの普及による大量の雇用切り捨てなど、私たちは種として、そして惑星として絶滅への道を歩んでいます。
 この方向へ進み続けるのではなく、新たな道の開拓を私は提案しています。気候変動もなく、AIによって自分たちの首をしめることもない方向に、人類は進まなければなりません。
ー今現在、この世界のどこに希望を見出していますか?私たちは皆現在の社会システムの住人であり、そこから逃れるのは簡単ではないように思えます。
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Photo: Yunus Centre

ユヌス システムからの脱却は可能です。私はその実現のための提案を続けています。実際に人々はシステムの転換を希望しており、ソーシャルビジネスは絶好の機会を与えてくれるでしょう。
 資本主義の世界においてビジネスの目的は一つです。お金を稼ぎ、利益を最大化することしかありません。ビジネスを遂行する一員であれば、利益の追求以外に道はないんです。人類はそこにおいて、自己中心的な側面を表現せざるをえません。
 私たちは、まったく違うかたちのビジネスをつくり出す必要があります。自己中心的な側面は傍に置き、個人だけでなく「コモン=公」の権利について考えるシステムが必要です。それが「ソーシャルビジネス」なのです。
 自己中心的なビジネスは常に、利益の最大化を追求します。それが「コモン=公」のビジネスにおいては、利益はなくてよいのです。最大化された利益と、0%の利益の両方を求めるビジネスの融合は可能です。実際に私は利益を出すビジネスと、利益は出さないけれども人々の問題を解決するビジネスの両方をやっています。
 解決すべき問題とは、例えば再生可能エネルギー、富の集中、貧困層のための金融、そしてヘルスケアなど多岐に及びます。しかし自己中心的なビジネスは、これらの問題に関心を持ちません。だからこそ私たちには、まったく別のかたちのビジネスが必要なのです。
 利益の最大化は求めないけれども社会の問題解決には寄与する、「公」のビジネスが求められています。だからこそ、ソーシャルビジネスに特化し、いくつも公共のためのビジネスを進める「グラミン」に世界から関心が寄せられ、高く評価されました。今やソーシャルビジネスのネットワークは世界に広がっています。
 私たちは世界の各大学で、「ユヌス・ソーシャルビジネス・センター」の設立をすすめています。それはソーシャルビジネスについて教え、研究するセンターで、すでに日本にもいくつかあります。若者たちはそこでソーシャルビジネスのことを知り、語らい、古いかたちのビジネスと共に歩まなくてもよい、新しい道について学ぶことができます。
 これはまったく新しい考え方です。新しい社会システムをつくることは、古いままの考えでは不可能です。古い考えは、新しい社会に私たちを導いてはくれません。
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Photo: Yunus Centre


週一更新、毎週月曜12時に公開してきたユヌスさん記事も、遂に来週で最終回。話は徐々に核心に迫ってきました。
子どもたちを預ける教育システムについては私たち全員、考えざるをえません。では9/28(月)の公開、お楽しみに!
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(通訳:鈴木敬子/構成:平井有太)
2020.07.28 tue.


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