2020.03.18 Wed.

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  ”キレイゴト”を言うだけではなく、それを実践し、さらにはビジネスとしても成立させる。人々のマインドシフトを促し、本当に世の中を変え、現実に危機的状況にある地球を救うにはその積み重ねしかない。
 patagoniaの社会に対する姿勢と取り組みには納得感しかない。しかもハードルが高いそれらを実現させながら、多くのファンを擁し、国連の地球大賞を受賞するまでの影響力を持つのだから、凄みすら感じる。
 日本支社長に就任した(親しみを込めて)マーティは、「ネガティブな行為では結局何も変わらない」と語る。だからpatagoniaは、理屈をこねる前に社員がサーフィンなどに親しむことをサポートするし、そこで「楽しさ」、「ポジティブ」からの社会変革を標榜する姿勢は、みんな電力にも通じるかもしれない。
 ここまで大きな反響をいただいたインタビューの最終回。
 patagoniaとみんな電力を繋いだものはもちろんエネルギーであったが、その核心にある価値観とちょっと先の未来までが垣間見えるお話、ぜひ一人でも多くの皆さまに届きますよう。
—patagoniaの方法論はみんな電力(以下、みんでん)と似ている気がします。ただ、みんでんのケースでそれは「儲かるか」、「楽しいか」に集約されます。
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マーティ まったくそうあるべきです。
 私たちの場合は、どのような素材が環境にいいかを考えています。どのようなプロセスが最適か、アパレル業界は何もしないでいると、CO2排出に関して最悪な影響を与えている業界の一つです。もし私たちがアパレル業界の常識を刷新できて、ビジネスの新しいやり方を皆さんのために提案できてそれが受け入れられたとすると、それは大きなインパクトを持ちます。現状ですでに大きな損害を地球に与えている業界なわけですから、変化をつくれればその影響も大きくなるのです。
 私たちにとって、最初は小さな取り組みだったことも、徐々に拡大しつつあります。私たちのつくる製品はより再生可能になっていきます。そして、これからオープンするストアにはWorn Wearセクションがあり、着古した製品を私たちが買い取り、それをまた売るというサイクルができればよいと思っています。日本にそれを根付かせたいと思っています。
 その機能は多岐に渡ります。
 一つはまず、「改めて製品をつくらない」ということがあります。すでにつくられたものを使うだけですので、環境負荷は最小限になります。また、古い素材を使って価格も手頃になるので、それによって高校生のような若い顧客を呼び込むことが可能になります。そうして彼らが友人たちに、パタゴニアのことを伝えてくれることになります。私たちは、ストーリーテラーを探しています。
 もし私たちがやるべきことをやれているのなら、私たちのお客さまは私たちのやっていることを拡めることに前向きになってくれます。まるで湖の投げた石から波紋が拡がるように、しかもその石をできるだけ多く投げ込みたいと思っています。そしてその波紋の連鎖が、新たな個人、企業、そして政府に届いていくのです。
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patagoniaが提案する食品「プロビジョンズ」。ここでも込められた想い、背景のコンセプトはありながら、そもそもの「美味しい」という事実が具現化されている

—目標に掲げている再生可能エネルギーの100%化は、順調ですか?
マーティ はい、順調です。しかしとはいえ、初めて実現される、日本社会が経験したことがないことであるわけで、そのプロセスそのものが挑戦です。そこに明確なルールもありませんが、道もありません。もちろん簡単なことではない上に、それをやることで利益が明確に増えるわけでもない、社としてのポリシーを体現するためにやっているのです。これは「やらねばならないことだ」と思っています。
—それが順調にクリアできるとして、日本は今からでもこのジャンルで世界を牽引できる可能性はあるんでしょうか?
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マーティ 先ほど言った通り、一度「シフト」が起きさえすれば、変化はとても早く起きるでしょう。ティッピングポイントがいつくるか、日本ではメディアも市民も、教育レベルの基本がとても高い人々です。人々がニュースや新聞で本当のことを知るようになれば、それはすごいスピードで広まっていくでしょう。それが他国では、そこまでスムースにことが進みません。
 ですから私は今もまだ、環境の世界で日本がリーダーになれる可能性があると思っています。個人的にも、そうなるように願っています。
—環境について、気候危機について語る時、どうしても説教臭くなってしまうことが多々あります。その点は、どうすべきか、アドバイスはありますか?
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マーティ 私たちはアウトドアブランドです。そこで最もシンプルでわかりやすいのは、キャンプやサーフィンに誘い出すことです。そこで一緒に体験すれば、環境についてわざわざ語ることもなく、何が問題か見えるようになります。
 サーファーたちは、水の世界で何が起きているかすべてを知っています。スキーヤーは、激変する雪山の状況を知っています。だから白馬で彼らは「POW」を始めるわけです。山に何が起きているか、自分たちのホームグラウンドが受けている被害を、嫌でも知ってしまうのです。
 ですから、それが誰であれ、あなたと自然の中での楽しみを共有すれば、意識は変わります。それが都会に暮らし、満員電車に乗る日常から逸脱する、最も簡単でシンプルな方法です。それがなければ、いくら新聞で読もうとニュースで見ようと、食事は毎回食べれるし、仕事の後のビールは美味しいし、あたかもすべては変わらず、問題ないような錯覚が、錯覚であることに気づけません。
 私はフロリダに10年住み、海の変化を見てきました。赤潮が起きて、海に入ることすらできないことがありました。自然の近くに住んでいれば、説明はいらなくなります。自然が雄弁に語ってくれるのです。
 誰も説教臭く、押しつけがましくなりたくありません。受け手も、それでは耳を貸してくれません。
—私は曽祖父母まで含め、皆が東京にいる家庭で育ちました。
マーティ 東京にいて、ある意味の「泡」の中で暮らすことはとても簡単です。とても繊細な都市でありながら同時に巨大で、何においても終わりが見えない街です。ただここでは、コンクリートしか目に入ってこないということが、一つの現実でもあります。
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—個々人が、この状況の中、毎日の生活の中でできること、すべきことは何でしょう?
マーティ 何よりまず、「気づき」だと思います。課題があることに気づいて、人は初めて行動に移すことができます。一般的に、日本のリサイクルの仕組みは機能していると思います。それはもちろん、必要な一歩です。
 そこでさらに、例えば私たちは今オフィスで「ゼロ・ウェイスト(ゴミ0)月間」の最中です。これはスタッフから上がってきた目標でした。私自身、この取り組みから多くを学んでいます。自分が出すゴミを、工夫と努力で0にできるとは思っていませんでした。
 私は元来、小さな取り組みの積み重ねが意味するものが、一気に大きく獲得するものよりも大きいのではないかと感じています。「CO2を20%削減した!」ということはもちろん素晴らしいことですが、大き過ぎて個人的実感として感じられないこともある。でも、日々の暮らしの中で、「今日自分は何を成し得たっけ?」という問いに答えられるかどうかは、満足感か充足感に直接繋がります。
 それが、私たちがやろうとしていることです。
 私たちのチームには、それぞれが優れたアイディアを提案して、小さなことから実施することで、皆でやる取り組みのレベルを押し上げることができる人材が集まっています。それはパタゴニアだけができることではなく、小さいことこそ、誰もが気づいて、実施できることだと思っています。
—ビールの評判は日本でいかがですか?
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原料「カーンザ」は土を耕さなくても成長し、小麦よりも少ない水で育つ。大気中からより多くの炭素を土に封じ込め、土壌内の生物の多様性を回復させるという

マーティ 想像を超えて、良いリアクションを得ています。皆さんに喜んでもらえており、それを売るほどにCO2の排出を押さえられる、素晴らしい商品だと思います。
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—最後に、言える範囲でパタゴニアの新たな挑戦について聞かせてください。
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マーティの後ろに、イベント用パネルになった、patagoniaビールの原料「カーンザ」が見える

マーティ 特に新しいことというよりは、私たちが掲げたミッションステートメントの実現が、大きなチャレンジです。あの宣言に沿って、私たちは現在日本でも5年後の数値目標など、すべてを刷新しています。毎年ごとに、より野心的な目標を掲げ、実現のためのロードマップをそれぞれの部署担当者たちがほぼ0からつくり直しています。
 私たちは企業としての労働環境も、日本で最も居心地よい会社にするつもりです。日本は特に労働時間の長い国ですので、まずは店舗を毎月第3水曜日は閉め、オフィスを毎月第3金曜日は閉めます。私たちは社員に野外で人生を楽しんで欲しいのですが、結果的に店舗スタッフが地域イベントを休みの日に開催したりもしています。それは素晴らしいし、社内の高いモチベーションを示す嬉しいことですが、とにかく「働いている意識」で活動をしないで欲しいと思います。
 人は楽しむことで、ずっと建設的になる存在です。それは私たちのもう一つの挑戦であり、日本にいながら、従来の日本の労働環境とは違う状況を生み出したいのです。
 そして、それも押しつけがましくありたいわけではなく、ただ行動で示したいのです。「これ、楽しいですよ」、「一緒に楽しみませんか?」という姿勢は崩さず、何にせよやってくるであろう未来の変化を、なるべく早く起きるよう促したいと思います。
 日本の経営者たち、リーダーたちも、もう実は水面下では気づいているのだと思います。そろそろやり方を根本的に変える時で、それは「楽をしよう」ということではなく、人々はもっと幸せで仕事を楽しむことで、業績は伸びていくのです。
 これまでと比べれば根源的に違う思考回路と言えるのかもしれませんが、古い日々は終わったのです。私たちは競合相手とも目標を共にし、手を繋いで進んでいきたいと思っています。成績を競り合う姿勢は、終わりです。
 課題が巨大過ぎるのです。地球は危機にあって、私たちが業績云々で競い合っている場合ではありません。そうではなく、「これ、どうする?」という課題を共有して共に考えることが、私たちの現在の立脚点です。
—意識の高さや、あなたの言葉で言う「気づき」は、経済的にそれなりのゆとりがある存在でないと、日々の暮らしに追われて精一杯と思います。その時に機能する、もしかすると新しい「価値」とは何でしょう?
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マーティ 私は7歳でミシシッピーに引っ越して、そこで高校生まで過ごしました。地域で、私は唯一の白人で、まわりのすべての友人はアフリカ系アメリカ人でした。たいていの場合彼らの家は、貧しい農家でした。それは77年頃、公民権運動からまだ間もない頃の話です。
 私の記憶では、友人の家に遊びに行くと家具はすべて中古で、確かに貧しい見た目ではあるんですが、魚を釣ってくるとそれを家のお母さんが料理してくれて、その美味しさには目を見張るものがありました。食後はボロボロのソファに座り、すると彼らは演奏をはじめ、それは素晴らしい、本物のカントリーブルースとダンスでした。
 そこにいた全員が幸せでした。その空間で、お金に意味はありませんでした。その経験は未だに、私に大きな影響を与えています。今も私は、これは良くも悪くも、お金にモチベーションを喚起されることがありません。幼少期に、お金と関係のないピュアな幸せを目にしたのです。
 彼らは貧しさを感じていませんでした。もちろん社会的には貧困層として認識されていましたが、誇り高く、胸を張って仕事をしていました。手はゴツゴツした岩のようで、日々を生きている姿に、私は人間を見ました。
 現代において、私たちは過剰な物質的幸せを手に入れてしまいました。そのほとんどは、私たちの人生に実際はいらないものです。その経験が、今も私に染み付いています。常にそのことを考えるわけではないですが、でも今も、どこかで判断をする時に、その時の経験が基準になっているのです。
 お金は儲けることもなくすこともありますが、世の中にはどうやってもあなたから引き剥がずことができないことがあるのです。そしてそれは往々にして、あなたにとって意味深いものなのです。
 ですから、私は経済的な問題は確かにありますが、本当に大切なことはむしろ貧しい国やエリアからこそ学べるのではないかと思うのです。彼らが本当の意味での幸せを見つけてさえいれば、もちろんそれは簡単なことではないかもしれませんが、私たちが学ばせていただく方の存在なのです。
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マーティ・ポンフレー

1970年6月29日、フロリダ州マイアミ出身。日本ではナイキジャパンでアナリストとしてプロフェッショナルキャリアをスタートした後、カテゴリーセールスマネージャーに就任。その後、フォッシルジャパンでオペレーションズディレクター、マネージング・ディレクターを経て、アメリカ本社で複数の副社長ポジションを歴任。2007年以降はコンサルタント、昨年10月1日からはパタゴニア日本支社長として勤務。
曰く、「新しいミッションステートメントである“私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む”をビジネスのすべての側面で適用し、気候危機に対する革新的な解決策を探すという明確な機会と責任の元に、邁進していきます」

少年時代にミシシッピーで、リアルなブルースが歌われている現場での体験が今のご自身の根底にあるというマーティ。
エネルギーに関しても先駆的取り組みを当たり前に実践するpatagonia。今後の、みんな電力との協業にもご注目ください

 

(取材:平井有太/撮影:小澤雅志)
2020.02.07 fri.


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