2020.02.26 Wed.

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現在みんな電力はパタゴニアと提携し、千葉県匝瑳市でつくられているソーラーシェアリングの発電による電気をパタゴニア東京・渋谷ストアに供給中

  アウトドアブランドpatagonia(パタゴニア)。広く知られた、その環境に対する先駆的取り組みはここで言及するまでもなく、昨年国連最高の環境賞「UN Champion of the Earth Award(地球大賞)」を受賞した事実だけを記しておく。しかもそれだって、パタゴニアの数多の取り組みの中にあって、特筆すべきことではないかもしれない。
 パタゴニアのミッションステートメントにはこうある。
「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」
 パタゴニアジャパンでは昨年、約10年間日本支社長を勤めた辻井隆行氏が退任し、10月1日からマーティ・ポンフレー氏が同役職に就任した。
 ポンフレー新支社長=親しみを込めて「マーティ」に、これからパタゴニアは日本で何を標榜し、何を成し遂げるか、聞いた。
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—今、地球が置かれている状況を、改めて説明していただけますか?
マーティ 今の地球の状況を一言で表すとすると、「Critical(クリティカル。「危機的な」の意)」でしょう。起きている変化は年ごとではなく、もう月々、または本当に日々起きるようになっています。
 つい先日は白馬に「POW」のイベントに行きましたが、雪がまったくありませんでした。加えて、日本にはかつてなく強烈な台風が来るようになりました。昨年の台風15、19号は記憶に新しいですが、あれは海洋が温まっていることに起因しています。他にもオーストラリアやカリフォルニアでは山火事が猛威をふるっていますし、すべては普通の事態ではありません。
 10年前の今日を振り返れば、この変化が本来10年で起きるようなものでないことは明らかです。つまり状況は、加速度的に悪化しているのです。
 私たちは本気で、地球温暖化を1.5℃以下に抑えないとなりません。それには2010年のレベルより45%、CO2(二酸化炭素)排出量を削減する必要があります。そうしてやっと、2050年目標である、排出量と同量のCO2を大気から除去する「実質0」が実現できます。それは私たちが掲げる目標ではありますが、数値は信頼できる世界中の科学者たちが算出したものです。
—それなのに、そのデータそのものを否定する立場の人も、世界にはいる。
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マーティ ただ無条件に否定する人々はどの世界にも、どの時代にもいます。しかし事実は一つです。そして1.5℃目標を実現するのは、とても難しいことです。それは、パタゴニアだけでできることではありません。この地球規模の問題に対して、私たちは小さな存在です。
 そこで日本について話せば、Global Peace Indexというレポートによると、日本は世界で2番目に大きく気候変動の影響を受ける国に認定されています。1位はフィリピンです。その事実だけで、これはビジネスの立場からだけではなく、政治的な立場としても、行動が必要と言えます。今後おのずと、その必要性は他国よりも増していくでしょう。
 それは、私たちのミッションステートメントにそのまま通じています。それは、「地球を救うためのビジネスをする」ということです。昨年それを掲げ、私たちの企業活動の軸としたことで、あらゆる取り組みがその周辺状況まで含め、すべて変わりました。
—来日以降、かつて住んだこともある日本社会、日本人の環境意識をどう感じますか?
マーティ 低いと思います。一般的に、日本の環境への意識は世界諸国と比べてもずいぶん遅れているように感じます。それは日本の弱点と言えます。ただ同時に、日本だからこその強みがあります。
 日本という国は、一つきっかけさえあれば、国としてある方向へ向かい、大きな目標を一気に達成する力において、目を見張るものがあります。ただそれが起きる上での、最初のきっかけまでの道が、現状とても険しいのです。
 これはちょっと飛躍してしまう話かもしれませんが、現状日本の政策は国を、私たちの向いている方向に導こうとはしていません。そして遅かれ早かれ、古い産業は退く必要があります。
 その状況下、私たちが実践していることは、私たち自身が理想とする姿、向かう方向の前例そのものになろうということです。もし私たちが、環境に貢献できるテクノロジーや、地球を守れる有効な方法を見つければ、いつでもそれを共有する準備もできています。それらを私たちだけで専有して実践しているだけでは、今置かれている状況から地球を救うには、もうすでに足りないからです。
 私たちが望むことは、ご一緒できる企業や自治体、NPOやNGOなどソーシャルな団体や個人さまと共に前に進むことです。私たちを支持してくれているお客さま皆さんも含め、同じアクティビストとして、取り組みを続けたいと思っています。
—この国で最も有効な影響力を持つであろう存在は、誰であると思いますか?
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世界各地の若者たちが主導して開催された、より強い気候変動対策を求めるマーチ「Friday For Future」。その日本版にマーティも参加した

マーティ 若者です。それは若者こそが、それぞれの両親、そして祖父母までを説得できる存在だからです。最近世界各地で起きたクライメート・マーチはその象徴でした。
 もし私たちが若者たちを巻き込むことができれば、そのこと自体が未来を変えることに他なりません。考えてみれば、彼らはこの気候の変化の影響を私たちよりも長い期間受けるわけで、それは当然なのです。だからこそ、彼らは自分の親、祖父母の考えを変える力を持ち、その積み重ねがビジネスや政治の変化にも繋がります。それが私たちが抱いている希望です。
—スウェーデンの16歳、グレタさんのような存在を日本でも見かけますか?
マーティ 必ずしも特定の個人というわけではありません。でも、白馬では高校生たちが積極的に動き、それが村の気候非常事態宣言に繋がりました。自治体が宣言を出したのは国内3例目で、画期的なことだったと理解しています。
 今何が起きているかと言うと、日本従来の「センパイ〜コウハイ」な関係性がひっくり返り(笑)、若者たちが年配者を率いる構図ができつつあるのです。
—日本が、集団として動き出すと何よりも強さを発揮するというのは、何から感じたことですか?
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マーティ 過去に7年間日本に住んだこともそうですが、歴史もそれを証明していると思います。それがある種のトレンドでも、政策でも、統制をとることができる日本の構造は、もちろん機能しないこともありますが、一度はまれば強い力を発揮します。
 自然災害があって、人々が水を求めて列をつくると、日本ではしっかり皆さんが待つことができます。他の国では、そうはいきません。そういったある種のコミュニティのセンスが、ここにはあります。それは日本では国土の7割が山であり、集落の文化が根付いていて、近所同士でお互いを気にかけあい、共生してきたカルチャーがそうさせているのではと思っています。
—それでも近代の日本は、いろいろな影響で変わってきたという意見もあります。
マーティ もちろん常に変化はあります。しかし同時に、文化には深く刷り込まれているものでもあると思います。例えば、電車に乗っていてそこにいる5歳児を見ていても、まったく問題ないように感じます。いつもそこには、自然体でのお互いへの敬意や気遣いが、他のカルチャーでないレベルであると思うのです。
 ですから、そういった側面をポジティブな方向に導くことさえできれば、社会におけるマジョリティが続いてきてくれると信じています。
—再生可能エネルギーのあり方は本来、歴史上常に自然の脅威にさらされてきて、それに伴った信仰までをもつくってきた日本のあり方と、噛み合うはずです。しかし今、そういった古からある日本のあり方が忘れられつつあるかもしれません。
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市民エネルギーちば合同会社運営の千葉県匝瑳市にある発電所。ここから渋谷ストアの年間電力使用量約6.5万kWhをほぼ賄っている

マーティ 私たちはまさに自然の力を借りようと、千葉県の匝瑳市にソーラーシェアリングの発電所をつくりました。そして、そこでできた電気を自分たちのショップに供給しています。
 それは私たちにとって、とても大きな、大切なことです。「ソーラーシェアリングで発電している」ということが重要で、そのことで私たちは電気と同時に、発電しているパネルの下で農作物もつくれます。将来的に私たちは、そこで育てた農作物も商品にしていくでしょう。そこまでのことができるようになる力は、循環型でオーガニックな経済のあり方を存在で証明できる、大変貴重なものです。
 再生可能エネルギーには、地域にコミュニティをつくり出す機能があります。そして同時に、人々にポジティブな変化がどのようにもたらされるものか、示すことができます。
 それまで環境に関する活動をしてこなかった人でも、再生可能エネルギーについて一歩ステップを踏み出すことで「あ、これは実際にできる。本当に変わる」という実感が、さらに「もっとやりたい。できる」という意識へと進化していきます。
 踏み出したその一歩が、それぞれの意識にかけられたベールを剥いで「今、見える。問題はあそこにあるんだ」という気づきに導いてくれます。それは確かに日本人にとって、「思い出した」という感覚なのかもしれません。
 再生可能エネルギーとは、それそのものがいいというだけではなく、それが存在として人々のマインドセットに与える影響が、もしかするともっと重要なのです。そのマインドが、未来に向けたさらなる行動を生み出すのですから。
 環境活動に取り組もうという人々に必要なのは、ある種の成功体験です。再生可能エネルギーは「これをやったら、こういう変化が生まれた」という、最初の具体的な体験を提供してくれるのです。
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マーティ・ポンフレー

1970年6月29日、フロリダ州マイアミ出身。日本ではナイキジャパンでアナリストとしてプロフェッショナルキャリアをスタートした後、カテゴリーセールスマネージャーに就任。その後、フォッシルジャパンでオペレーションズディレクター、マネージング・ディレクターを経て、アメリカ本社で複数の副社長ポジションを歴任。2007年以降はコンサルタント、昨年10月1日からはパタゴニア日本支社長として勤務。
曰く、「新しいミッションステートメントである“私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む”をビジネスのすべての側面で適用し、気候危機に対する革新的な解決策を探すという明確な機会と責任の元に、邁進していきます」

パタゴニアは確かに企業ではあるが、すでに目標が自社の利益よりも「地球を救う」という任務のもと、
それを実現しうる、あらゆる存在と連携していく姿勢が根付いているように感じた。次回もお楽しみに

 

(取材:平井有太/撮影:小澤雅志)
2020.02.07 fri.


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