2019.06.10 Mon.

  「温故知新」という言葉がある。「ルーツを知らなければ、進むべき道を見い出せない」という意味の、日本でもよく知られた論語だ。
 夫馬氏が語るのは、再エネへのシフトや気候変動対策がパリ協定からはじまったとしか理解できていない日本の危機的状況。世界を根底から揺るがす巨額のESG投資について、国内第一人者としての視点は的確だ。
 省庁の中でも力がない環境省がいくら提言しても動かなかった経産省や政府に対し、世界の動きを知る外務省が環境省側に付き、状況が変わってきた日本。3.11という事態を受けても原発がスローダウンしただけだったこの国で、世界からずいぶん遅れながらも、希望の光は少しずつでも、大きくなりつつある。
 みんな電力の顧問も勤めるコンサルティング会社・ニューラル代表取締役社長の夫馬賢治氏。今回が最後のインタビュー全3回を読んでいただければ、私たち自身の生活の仕方も、仕事の仕方も、意識の部分から変わる。
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2014〜2018年における、世界のESG投資額の推移。日本で特に増えている。グラフの出典は「GSIA

夫馬 大きいのは外務省の存在です。
 ずっと続いていたのは環境省と経産省の対立構図で、しかし環境省は産業界に対しては存在感が出せず、話を聞いてもらえなかった。「NGO的な省庁だよね」的な扱いに甘んじていたところ、外務省が声を出し、環境省の肩入れをはじめて、与党の人たちの考えが変わりはじめました。
 首相官邸のところにも、今までは経産省からの「再エネはまだ先です。まだまだ石炭火力です」という声しか届かなかったのが、外務省からの声が届きはじめて「あれ、経産省の言ってること本当なの?」という状況になってきたんです。それはここ2年くらいの動きです。
 外務省が環境省側についたというのは割と大きくて、同じタイミングでNHKで放送された『脱炭素の衝撃』というスペシャル番組がありました。
戸田建設の方が涙しながら「悔しいです」とか、中国が胸を張って「再エネで世界をとる」という話が初めて世の中に出た番組ですね。
夫馬 あれを観てはじめて、それまでは国内で一切大手メディア発信の再エネ話題がなかったのが、日経を含めて多様な情報が出てくるようになりました。そうして、産業界も一枚岩ではなくなってきて、他国の話が漏れ伝えられるようになり、変わってきたという流れです。
 ですから、もしかすると、もうちょっとかもしれません。大阪冬の陣から夏の陣くらいまできて、堀も全部埋められて「さあさあ、これからどうしますか?」みたいな状況に追い込まれてきてはいます。本当に、あと少しかもしれないです。
ー最前線で、刺激的な現場を目撃されている。
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夫馬 見ています(笑)。
 国の制度はすぐには変えられません。その中で今一番必要とされているのは、この制度の中でもやれるやり方はあって、それを実際に提供できるPPS(電力小売)さんの存在です。そうじゃないと、皆さんがいくら「RE100に参加したい」、「CO2減らしたい」と言ったところで、ソリューションがなければ何もできません。
 日本の再エネはまだ、すべてがフルフルに動いても、水力を除くと7、8%くらいです。しかも厳密には、FIT電気は日本で「再エネではない」と定義されています。その7、8%にはFITも入っているので、そんな「純粋に再エネと呼べるのって1%未満?」という状態の中、どうソリューションをつくり出してくれるPPSさんがいるか。それができる人たち、そういったプレイヤーが求められています。
 そう考えると、みんでんさんはそれができるプレイヤーですので、それはすごいと思います。
ーそのハードルは高い?
夫馬 できるんですが、なかなか他に出てこないとは思います。これだけ複雑な制度をちゃんと理解した上で、設計して、つくって、説明するところまで一貫してできないと、お客さんはわからないんだと思います。
ー成功例の積み上げと、そこで憤りとかイラつきの類は一切見せずに、明るく楽しい市民社会に望まれている新しい電気の在り方を共有する、高度なコミュニケーション能力が必要という。
夫馬 その上で、それでも大手電力さんは少しでも隙あらば当然顧客を奪い返しにきます。必要に応じて、要所要所で「実はこうなんですよ」ということを素早く的確に説明できないと、この荒波を泳ぎきれないと思います。
ー将来的には、市民にとって自ら発電することが「自分ごとにしていく」行為だと思いますし、拡まってくれればと思います。それに向けて、何が一番有効と思いますか?
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夫馬 一番の問題は、皆さんが実は「再エネはやっぱりだめなんじゃないか」と思っていることです。心の中で「高過ぎるんじゃないか」、「不安定なんじゃないか」、「メガソーラー大丈夫?」とか、いろいろなことで「再エネって言ってるけど、実際どうなの?」と思ってしまっています。その固定概念を一度取り除くことが大切だと思います。
 それをまずやってはじめて、再エネが本当に頼れるのか、やっとご自身で考えられるようになるのかなと。今はまだ、いろいろな雑音が多過ぎる気がします。
 でも、一人一人が調べて本当に分析するのって、正直無理だと思うんです。時間も限られてますし、暇があるなら子どもの面倒も見なきゃいけません。その時に大手メディアの声が特に大きいとしても、他のいろいろなメディアを通じて「大手企業も再エネにむけて動き出しているよ」、「再エネってそんなに悪いものじゃないよ」、「海外だとこんなにみんな使ってるよ」みたいなことが伝わると、「再エネでもいいんだ」という安心感を持ってもらえるかなと思います。
ーIT革命当時を知る人には、「電力の世界の変化はもっと早い」と言う方がいます。
夫馬 電気の動きは確かに早い。ここ数年、2014年とパリ協定、去年の2018年を見るだけでも様変わりしています。「再エネを使いたい」なんて、2015年でも誰も言いませんでした。電気は電気のはずが、「再エネがいい」という価値観が生まれました。
 だから、この3年間だけでも大きく変わってきて、しかもこの変化はこれからも続いていくと思います。
ーその変化の代表格は、現状ではやはりカリフォルニアのTESLAかと思います。他にもANKERというバッテリー会社も出てきました。何か注目されているものはありますか?
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夫馬 日本の場合は少ないですよね。わかりやすいものはなかなかなくて、裏側ではいろいろありますが、TESLAみたいなものはないですね。
 しかしすごいのは中国で、あちらに行くとガソリンの原付なんて一台も走っていない地域が増えています。最近はもう、地域によってはバスすら電気自動車です。ですから、BYDという中国の最大手の電気自動車メーカーが、もちろんTESLAのデザインと比べればチャチく見えるかもしれませんが、市場シェアは遥かに多くとっています。そういうメーカーさんはいますが、日本に入ってきていないので、見えずらい。
 他には、グーグルはグーグルで地熱発電の事業をしています。小型地熱発電を自社で開発していて、それは家庭用地熱です。場所はもちろん選ぶんですが、地熱のエネルギーが豊富にあるエリアであれば、その循環で部屋を暖めるようなシステムで、「暖房費はいらなくて安定はしています」と。
 さらに彼らは3年ほど前、結構有名なAIの会社を買収しました。「何に使うのかな?」と思って見ていると、「省エネで使ってみようよ」とのこと。そして、そのAIを使ってエネルギーの最適化をしてみたら、それだけですぐに2、3割減らせたんです。グーグルのあの規模のサーバーでそれだけ電力を減らせると、かなり大きな規模です。それはすごいインパクトなので、グーグルはその技術を売ろうとしています。
ーそれはあらゆる中小の経営者、工場オーナーさんなどが欲しがりそうですね。
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夫馬 ですから「エネルギーを減らす」という意味では、いろいろな企業がいろいろな取り組みをしています。それも、TESLAのイーロン・マスクが「電気自動車で高速を走るんだ」と明言したおかげで、中国も自信を持てて、元気になったと言えると思います。
 マス向きには地味なんですが(笑)、他にも技術はいろいろあります。例えばスウェーデンの会社がCO2を出さない製鉄を始めようとしていて、もう技術は確立し実用化の直前まできています。コンクリートをつくるCO2の発生量が7割削減できる技術を開発した、アメリカの企業もあります。
ーそれにしても、再エネ先進国とはいえ世界的な影響力はそこまでないと思っていた北欧の、しかも年金の力の大きさは意外ですが腑に落ちました。
夫馬 例えばドイツやフランスの方が圧倒的に経済力が大きいのに、この2国の年金は「これはこの業界のもの、これはこの企業のもの」という風に制度上分散していて、北欧の年金よりも遥かに小さいんです。かたや日本のGPIFは化け物で世界一の規模で、それが動くか動かないか、むしろ日本の金融機関はGPIFだけで変わります。そして今、そこが動きはじめたところです。
 年金の、資本主義社会におけるパワーはかなりすごいんです。
ー日本には未来を見ない、どうにも変わらない業界と、否応なく変わり始めている部分の両面あるということでしょうか?
夫馬 どこかでアップルが否を認めたように、変わるタイミングが来ると思います。今後も企業に向けて伝えるべきことは、「これは生き残りをかけた取り組み」なんだよと。
 「やった方がいいよね」ではなくて、「やらないと会社が潰れますよ」という世界の話になってきています。国外の企業はそういう気持ちでやっていますし、話はいたってシンプルだと思っています。
 最近は私自身、東京の大企業だけじゃなく、地銀からも話が聞きたいと呼ばれたり、地方での講演の機会も増えています。そこでもそういったメッセージは出して、これを「なぜやっているのか」。「大企業だからやる」とかではなく、「中小でもやらないと、存在そのものがなくなっちゃいますよ」と。
ー疲弊した地方自治体が、最後の取り組みですべて丸ごと再エネにして、自然資源をエネルギーに変えて外に売ることで利益を循環させ、復活するようなケースが待たれます。
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夫馬 具体的に、例えば滋賀県とか北九州市とか、少しずつはじまってはいます。もちろん横を見ながらゆっくりな部分もありつつ、とはいえ狼煙を上げている自治体が出てきて、明るい未来の兆しはあります。再エネの話は分散型なので、どこでもできるんです。
 これから日本では洋上風力もはじまります。特に洋上風力の適地は日本海側なので、そこにも新しい産業要素が生まれていきます。
 あとは今、地方の再エネについて、送配電の連系問題で「送電線は満杯です」、「送電網引きたかったら数億円」という話が出ています。そういったものは市民の側から、「さすがにおかしくない?」、「こんなに地域活性を試みているのに、どこ向いてるの?」という声が出てくればと思います。
 市民が言うと、市議や県議、それこそ国会議員も「地元にこんな声が」と言うようになります。それが霞が関や産業界に届けば、彼らも無視はできません。最近も、東北電力管内で、発電者で均等な負担をし合おうという調整が実現しました。それも発端は、国会議員でした。だから、市民の声は議員を動かすということで、巨大な影響力があるんです。
 日本は日本なりに、まんざら悪いことばかりでもありません。今も力強い一歩を日々、歩んでいるところだと思っています。

 

刺激的でワクワクする夫馬さんのお話、いかがだったでしょうか?世界規模の変化には結局抗えず、遅かれ早かれ日本に来るのなら、相応の準備で、むしろそれをテコの原理で利用するくらいの対応ができたらと願います

 

(取材:平井有太)
2019.05.13 mon.
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夫馬賢治

株式会社ニューラル代表取締役CEO。みんな電力顧問。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。同領域ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。環境省ジャパン・グリーンボンド・アワード選定委員。東証一部上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。ハーグ国際宇宙資源ガバナンスWG社会経済パネル委員。講演、新聞や雑誌への寄稿、ラジオ出演等多数。ハーバード大学大学院在籍。サンダーバード国際経営大学院MBA修了。東京大学教養学部国際関係論卒。


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