2019.06.03 Mon.

  世界を突き動かし、近い未来、日本のことも根底から刷新するであろう「ESG投資」について、スペシャリスト・夫馬賢治氏インタビューの第2回。
 投資や金融の世界では当たり前でも、素人目線からはダークホース的に出てくる北欧の存在感。目先のことでなく、自分たちの持続可能性を冷静に考えた末、再生可能エネルギーの先端地にもなっている彼の地から学ぶことは多い。
 さらには、「先端企業は当然意識が高い」と思っていたアップルでさえ、当初はむしろ反発しようとしていたのを的確に論破し、逆に再エネの伝道師たるよう導いたのが老舗NGO・グリーンピースという事実。
 日本で日常を暮らす常識からは見えない底力をそれぞれが持ち場で発揮し、ある意味必然的に自然由来のエネルギーの必要性が増している。
 そんな中、いつまでも腰が重い日本を明確に動かしたのは、黒船「RE100」だったー・・
RE100-logos

世界で増え続ける「RE100」宣言する企業。ここまでENECTでも運営を担うイギリス本国日本のCDP、そしてクライメート・グループに取材を続けてきました

ー投資家が乗ってくるきっかけは、どこか他にあるんでしょうか?
夫馬 公的年金基金たちが2006年に生まれて2010年くらいに動き出し、GPIFは2015年頃なのでかなり遅いんですが、そしてそのもっと前から北欧の年金基金があります。
 北欧に関しては社会保障大国なので、年金が持っている資産が大きい。額の大きな投資家はおのずと声も大きいので、そういった北欧の投資家たちと、イギリスにはお金が集まってくるので現地の運用会社などが声を上げはじめました。でも当初は、まだそれも少数派でした。
 そこに、いろいろ分析をした保険会社も世界の行く末を同じように見てくるわけです。株価の上下も見ながら、どうすると「企業は生き残れるのか?」と考えて「あれ、気候変動ってヤバいじゃん」と。特に保険会社は、日本では生保と損保が分離されていますが、海外は通常一緒です。これには大きな意味があります。
 生保の業界の運用資産は大きいですが、損保は運用資産がそれほど多くありません。集めてもすぐ出ていく自転車操業が損保で、生保は人間が生きている間はずっと貯まります。その生保に損保が付いていると、災害リスクをモロに感じるわけです。台風、洪水で損保はお金がどんどん出ていってしまう。しかも「これからハリケーン、もっと増えるらしい」、「気候変動、ヤバい」と。ですから年金基金の後は、巨大な保険会社が動き始めました。
 公的年金と保険は、いわゆる機関投資家たちの世界で動くお金の半分以上を占めます。それはとんでもない金額で、兆の上の京とかにもなりますが(笑)、そのうちの6000兆円くらいの動きは、一気に波及します。
 彼らからお金を預かっている運用会社も、今度はそういうファンドをつくって運用しないとそもそも預けられなくなるので、「やっぱりESGは大事!気候変動!」と、みんなが言いはじめていきました。それが2010年から今までの流れですので、急激にバタバタバタバタと変わってきたんです。
ー北欧と伺ってピンときませんでしたが、公的年金の規模と重要性を鑑みると腑に落ちます。
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夫馬 彼らは運用で保険資産を増やさないとむしろ国の年金制度が破綻すると思っているので、本気度が違います。実際に北欧の年金基金は、もともとパフォーマンスも高い。そういう方々がESG投資に一気にいって、「低炭素や脱炭素の運用の方がいい」と言うのは、インパクトが大きいんです。
 特にノルウェーの年金基金は話題によく出てきます。彼らは年金基金プラス、北欧で唯一かつ世界有数の産油国でもあります。北海油田があり、ノルウェーは年金のお金と石油のお金を最終的に一緒にして一つの基金として動かすので、それは世界第2位の規模となります。ノルウェーがそういう姿勢でいると、なんとかノルウェーにお金を預けて欲しい運用会社は、「とりあえず気候変動大事ですよね」ということになるわけです。
 ですから、最初は理解できずに「何を言ってるんだろう?」となっていた運用会社も、気にしはじめて実際に動かすことで、「確かに」と気づいていくわけです。そして一度そうなると、今度は年金基金に何も言われなくても、自分たちでつくるファンドが「ローカーボン・ファンド」みたいなものになっていく。それが、こういったブーム以上の大きな流れをつくり出した源流と言えます。
ーこれはクライメート・グループのRE100担当であるサム・キミンスさんの話で、RE100が一気に拡まった契機には、グリーンピースの取り組みがあったと。
夫馬 それはいいポイントです。グリーンピースが一役買ったのは2012年、それもIT企業を対象にキャンペーンを張ったんです。当時はアップルでさえ後ろ向きだった頃です。
ー今や再エネ100%を誰よりも早く、当然のことのように宣言しているアップルが、2012年の時点で後ろ向きだった?
夫馬 はい、後ろ向きでした。
 製造業じゃないし、エネルギー企業でもないから「ウチは関係ないので」ということで、それはアップル以外のグーグル、マイクロソフトといったIT企業も、みんな後ろ向きでした。
 そこでグリーンピースは、「知らないフリしていますね」と。じゃあ、御社のサーバーを動かしている電力の石炭度、気候への対応度を、公開されている情報を元に勝手に全部計算し尽くして、格付けした上で公開したんです。そこにもちろん「A」はいなくて、「D・D・D・C・C・D・C・C」みたいな状況になりました(笑)。
 でも、アップルも最初は「あなた方間違ってるよ」と戦ったんです。「実はサーバーはこっちにあって」とか、「グリーンピースの計算はおかしい」みたいなことで、本当に約1年間攻防するんです。お互いのホームページ上で反論返しを繰り返し、最後は遂にアップルが説得されました。
 それで「わかった。確かにそっちの言ってることが正しいから、再エネ100%にします」ということで、それが2013年でした。その攻防はアップルが一番激しかったんですが、同じタイミングでグーグルもアマゾンもマイクロソフトも、まったく同じことをやられていきました。結果、みんなお手上げして、「オレたち気づきました」と。そうして約1年半後、さっきのクライメート・ウィークに参加して喋ることになるんです。
 ですので、グリーンピースの功績としては、「あのアップルやグーグルを動かした」構図が本当に大きかったということです。
ー日本におけるグリーンピースのイメージ以上の、大きな役割です。
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夫馬 国内での影響力は小さいかもしれませんが、グリーンピースは世界的には大きな影響力を誇っています。2012年にグリーンピースが勝手に格付けレポートを出した時、楽天やNTTも対象になっていれば日本でも話題になったかもしれません。しかし、残念ながらグローバル大手しか対象になっておらず、結果として日本企業はまったく蚊帳の外、その時起きていることを知らないままでした。
ー夫馬さんから、日本のグーグルやアマゾンに話してもらえたらと思います(笑)。
夫馬 切り替えようとする気持ちは、皆さんすでにお持ちです。するとそこで、そもそもみんでんさんも困ってらっしゃる、「日本に選択肢がない」ということが弊害になっています。それでも、気持ちとして「替えなきゃいけない」というマインドは、増えていると思います。
ー国外のそんなドラマチックな動きは、日本の感覚からは別世界に感じます。
夫馬 「いつまで鎖国してるんだ」という(笑)。
 気候変動では、日本の人たちは必ずパリ協定から話をはじめます。これが非常にまずい。「すべての発端は2015年のパリ協定で」という文脈でしか気候変動について語られないんですが、パリ協定はむしろ後からつくり出された動きです。企業も金融機関もとっくに動き出していたのに、「パリ協定があってESG投資がある」とか、頼むからそういう嘘を流布しないで欲しいと思います(笑)。
 何が起きていたかということを、日本人はあまりにも知らな過ぎる。隠すとか騙すとかじゃなく、純粋に知らないので「大変だな」と思います。
ーでは結局、状況打破に必要なものは「選択肢をつくる」ということでしょうか?
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夫馬 他には、電力の選び方、電力とCO2、電力とRE100とか、日本では非常にややこしくなっています。この部分は「気づいていない」だけでなく、再生可能エネルギーをあまり好まない人たちが意図的にそうさせない制度を、ガチガチにつくっているということもあります。
 あまり好まない方々は、CO2をたくさん出す業界の企業さんです。彼らにとって本音は、「ナンバー1は原子力」で、その次に「石炭火力もやりたい」ときて、再エネはそのずっと後。いかに再エネが拡がらない、企業が再エネを求めないような制度を、彼らはうまく社会に埋め込んでいっています。
ーしかしそれはサステナブルと乖離している、日本が沈没する、子どもの未来も何もなくなる方向ではありませんか?
夫馬 日本企業はこの先3年しか見ていません。日本のそういう部分は、本当に理解不能になってきています。たぶん見ている視野がとても狭く、3年より先の経営計画を日本企業は立ててこなかったんです。「10年先に何が起こるか」ということで経営をする文化がない。「再エネをやったら来年儲かるの?」みたいな、そういう話しか出てこないんです。
ー成長パターンとして、投資した最初は一度ちょっと落ちてその後上がっていく「Jカーブ曲線」は、普通の概念かと思います。
夫馬 とはいえ、日本の産業界は、再エネについては未だに本音では懐疑的です。本当に短期でしかモノを見ていない。それに、彼らにしてみれば技術的にも設備的にも、一度投資しているものをやめるのはコストになるかもしれません。
 もう一つ心理的な側面であるのが、「経営者が間違っている」という判断をしたこと自体が「ありえない」という考え方です。そこでは経営者は無謬で、自分たちがやってきたこと、言ってきたことが「間違っている」とは言ってはいけない文化です。
 そうなると軌道修正するにしても、直近まで石炭火力をやっていたのに「なぜダメなのか」ということを言える、「自分が『間違っていた』とは言わずに説明ができるお膳立て」があればできるんですが、それが今はない。そして、彼らが自らその旗を降ろすことはありません。
 でも一方で外堀は相当埋まってきて、銀行はもうだいぶ後ろ向きです。出資したとして、冷静に考えて「30年後、その発電所は動いてるの?」という話なわけです。
ー今までの蜜月の歴史だけでは、辻褄が合わなくなってきている。
夫馬 メガバンクがさすがにお付き合いできなくなってきていて、商社もどんどんそうなってきています。でも未だに石炭を大量に使う業界は頑なです。
ー処方箋的なものはあるんでしょうか?
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夫馬 日本の状況も少しずつですが、変わってきてはいます。
 3.11をきっかけに再エネにはいかず、まず原発から石炭火力への移動が起きました。そして電力自由化は起きましたが、今のままではすごく中途半端な自由化です。結局大手電力会社が送電線を全部仕切って、発電所も、小売の情報も全部持っているままの自由化でした。
 一番大きなのは「RE100」というわかりやすい大きなテーマが日本に来たことです。それが、「再エネという世界の動きがあるんだ」ということを社会に知らせる契機にはなりました。

 

3.11を受けても再エネには直結しなかったが、世界の圧倒的動きに押され始めている日本。最終回は来週月曜日公開です

 

(取材:平井有太)
2019.05.13 mon.
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夫馬賢治

株式会社ニューラル代表取締役CEO。みんな電力顧問。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。同領域ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。環境省ジャパン・グリーンボンド・アワード選定委員。東証一部上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。ハーグ国際宇宙資源ガバナンスWG社会経済パネル委員。講演、新聞や雑誌への寄稿、ラジオ出演等多数。ハーバード大学大学院在籍。サンダーバード国際経営大学院MBA修了。東京大学教養学部国際関係論卒。


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