2019.05.27 Mon.

  「ESG投資」という言葉は、頭に置いておく価値がある。
 「SDGs」とか「RE100」といった言葉がまがりなりにも社会に浸透してきたかのように感じるのは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)、循環型社会、持続可能性を考える業界に身を浸し過ぎな人間たちの勘違いだろう。ちょっとしたものをプラスチックから別素材に変えたから何かした気になるには足りないし、それくらいは人様にも言わないそれぞれにとっての当たり前の取り組みなはずで、結局のところ謙虚な日々の積み重ね以上のものはない。
 今世界で何が起きているか。動き出した、その「Environment、Social、Governance」から頭文字をとった、怪物のように巨大な投資とは何なのか。
 気候変動とCO2排出、豊かな自然に子どもたちの未来。理想として語れることはたくさんあっても、根っこのところで誰が何を考え、どうモノゴトを導いているか。
 誰もが知ることで今がまるで別世界に見える、そんな話を届けてくださるのが、ニューラル代表取締役社長・夫馬賢治氏だ。

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ESG投資にコミットするPRI(責任投資原則)署名の機関投資家は2006年から年々増えてきた。グラフの出典も「PRI

ー一昨年、去年くらいにかけて、ESG投資が一気に拡がりました。
夫馬 ただ、そのはじまり、最初に「ESG」という言葉が出てくるのは2006年、もう13年前になります。そしてその言葉が出てから世界で火が着くのは、2010年頃になります。頭文字の「Environment、Social、Governance」の3つをもって投資先企業の将来性を考え、その3つを「投資先企業の評価に繋げていこう」という動きがESGなんです。
 その動きが2006年にはじまり、「こういうことってやっぱり大事だし、投資先を見極めるのにいい手法かも」という認識が拡がっていくのが、2010年頃なんです。
ーその展開と、京都議定書とかパリ協定は関係していますか?
夫馬 そこは実は、それほどでもありません。
 この話が大きく取り上げられていくきっかけは、リーマンショックです。それは、リーマンショックで企業が大ダメージを受け、もっと言えば欧米企業の経営陣は赤っ恥をかきました。それまで「大丈夫、大丈夫」と言い続けてたのに、実際に株が下落してダメージを受け、これは本当に「ヤバイな」と。もう同じことで言い訳もできないし、このままだとクビになる。2度と企業に対して「やってます」とか「大丈夫です」という嘘はつけなくなったので、まずは「あらゆるリスクを洗い出せ!」と言ったのが2008年でした。
 そして09年、10年くらいに、まず企業のサステナビリティ、つまり「2度とリーマンショックは起こさない」となった後、今まで見ていなかった環境や気候変動のリスクに焦点があたります。そうして「これは、今までちゃんと見てなかったけど結構ヤバいね」という認識が拡がっていきました。
ー「サステナビリティ=持続可能性」は、最近であれば自然環境について使われることが多い言葉ですが、企業がこの言葉を使いはじめた最初は企業自身の持続可能性を語るための言葉だった。

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夫馬 まさにそうです。企業が生き残るために使っていた言葉です。それがもともとの発端ですし、今でもグローバル企業のマインドは変わっていません。
ーそこから逆算して、「地球環境が終わっちゃうとオレたちのビジネスも終わっちゃうよね」、だから「なるべく負荷をかけないことしよう」となっていった。
夫馬 はい、そういう順番です。
ー最初から綺麗事ではない?
夫馬 はい、綺麗事ではありません。企業の本格的なドライブとなったのは、潜在的なリスクの蓋を開けていった時に出てきた「気候変動」でした。それが2010年頃、大企業の経営陣が冷静に地球上のリスクを見渡して、最も彼らが驚き、深刻な懸念を示したのものだったんです。
ー北極や南極が溶けてたり、すでに沈みかけてる島もあった。
夫馬 自分たちの事業に関する農業やエネルギーについて分析をしてみると、「気候変動、マジでヤバイじゃん」ということで、同時に2015年頃まで、世界の気温も上がっていきました。
 それでパリ協定ができるんですが、その時にはグローバル企業たちはとっくに気づいていました。「気候変動はとても大きな経営リスクである」ということで、だから協定は、あんなに皆がバックアップして、ある意味とてもスムーズに成立したわけです。その裏には、その5年間調べ尽くしたデータがあったんです。
ー同時に今もトランプ大統領や、火力発電を増設しようとする総理大臣がいます。
夫馬 トランプさんに関しては、「気候変動懐疑派がもてはやされた」というよりは、「低所得者の声をうまく拾い上げた」かたちです。ですから、「環境懐疑派である」トランプさんをすごく支持している人たちも多くはいません。
 インテリ層、経営者たちにもそれは同じで、トランプ大統領であっても石炭火力の割合はどんどん減り、この流れは止まりません。ですから、トランプさんがいるから「ESGは重要じゃないんじゃないの?」という例にはならない。いくら仮に彼が本気で言っても、それで金融機関とか企業は止まらないんです。
ーESG投資にドライブがかかった最大の震源地は、どこなんでしょう?

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夫馬 ESG投資は金融なので、投資の側面から見た時の発信源は北欧とイギリスです。北欧ではノルウェー、スウェーデン、デンマークの3国が大きいです。それ以上にイギリスは昔から金融大国ですので、イギリスで起きるムーヴメントは世界に拡がりやすい特性があります。
 特に北欧とイギリスの公的年金たちが騒ぎはじめました。彼らが、「自分たちの投資はこれほど大きなリスクを背負ってる」ということを言いはじめたのは、リーマンを受けた世界の企業の動きと同じタイミングです。そこで彼らも、「気候変動が大きなリスクじゃないか」と気づいていくんです。
 一番大きかったのは2012年、「座礁資産(Stranded Asset)」という言葉が出てきます。
 これは平たく言うと、まず「気候変動を抑える」という目標に対して「2℃」というものが意識されていきます。その時に「どの燃料が使えるのか?」、特に石炭は「どんどん燃やせなくなるよね?」と。すると、石炭は今まで資産価値のあるものと思われていたけど、気候変動を前提条件に入れると、急に「価値のない資産になっちゃうよね」と。それは、「船が座礁するようなことだね」ということで、生まれた言葉です。
 そのことは、割とシンクタンク寄りな、頭のいい人たちが集まっているイギリスのNGO「カーボントラッカー」が言い出し、それが本当にイギリスの機関投資家と中央銀行に取り入れられるんです。「これは納得いくし、まっとうだよね」ということで、そこから一気に脱石炭の動きが拡がりました。
 2012年は福島の事故もあった後で、「原発もちょっとダメでしょう」となり、おのずと「じゃあ、再エネしかないよね」ということになりました。そこから「再エネ」という言葉がどんどん強くなっていって、その流れの先でパリ協定に結実ということになったんです。
ー夫馬さんは、どのあたりでその動きを認識されたんですか?
夫馬 僕は2010年から11年の途中まで、アメリカにいたんです。その当時、すでにアメリカの大企業たちがその流れに乗っているのを見てびっくりして以来、のめり込んでいるという感じです(笑)。
 企業の取り組みもそこから進化しています。規模的にも、11年頃にやっていたアクションよりも今の方が大きくはあるんですが、それでも当時のアメリカで、十分に衝撃でした。日本でそんな話は一切聞いたことなかったので。
ー今でもあまり聞けないかと思います(笑)。
夫馬 それが、たとえ企業の自分自身の生き残りのためだとしても、「環境のことなんかを企業が真剣に考えるんだ」というところで驚きました。
ーリーマンショック、座礁資産、パリ協定などを経て、今勢いづいているESG投資やそれこそ「RE100」といった取り組みは、どこで出てくるんでしょう?
夫馬 まず2015年にパリ協定ができます。しかしその前に一つ、ターニングポイントとなるイベントが、2014年9月の「クライメート・ウィーク(Climate Week/気候週間)」でした。これは毎年毎年NYで、国連総会がある9月、外野としてNGOが集まって「クライメイート!クライメート!」言ってるイベントだったんです。それが10年くらい続いていました。
 大企業たちは2012年に関心を持ちはじめ、投資家がそれに続き、2014年にはアップルのCEOティム・クック、オバマ政権の国務長官、スイスの大保険会社のCEOも来るということで、それまではNGOが騒いでいただけだったはずが、急に各界の重鎮、著名人が参加することになったんです。マイケル・ブルームバーグがCEOのブルームバーグも、イベントに協賛しました。
 クライメート・ウィークは企業や政府が乗っかってきたことで、一躍とても大きな、注目されるイベントになりました。それを主催していたのがクライメート・グループで、他のNGOや関連団体もその場にいて、そのイベントでいろいろなイニシアチブが発足するんです。
 それがRE100や、他にEV100とかSBT(Science Based Target)もこのイベントでできました。それが今に続く大きな流れの発端になっています。
ー明確な発足地点があるんですね。

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夫馬 そういった動きがあって、次の年にパリ会議が開かれます。でも1年前のNYでその状態ですので、パリ会議の時点では政府も企業もNGOもみんなで一斉に行けたわけです。その動きを知らなければ「急に、なんで?」という感じでしたが、とっくに動きはじめているアメリカや他の国がスッと批准させていくという流れでした。
ー映画『不都合な真実2』が、その時の協定締結までのドキュメンタリーでした。大国がこれまでCO2を排出しまくっていたくせに、一度成長したら「調子いいこと言うな」と途上国が言うのを、みんなで力を合わせて説得し、足並みを揃えるという。
夫馬 今までの一番のネックは政府よりも、その裏にいる企業でした。そういった企業たちが、気候変動には「反対するものでしょう」と思っていたら、すでに1年前のイベントを経て「グローバルな企業ほど味方になる」という状況になっていたので、それをわかっていたアメリカは、自信を持っていけたわけです。
ーアップルが味方というのは、やはり強い?
夫馬 はい。でもあれは、特定の企業や人が引っ張っているというよりは、そこで「批判されても表に出るぞ」という存在の裏側で、みんなの「やらないといけないぞ」という意識は高まっています。ですから、矢面に出てくれる人のことは「ありがたい」と思っている感じです。だからティム・クックが出てくれば、いろいろなCEOたちが「いけいけ!」となっている(笑)。
 そして大きいのはそこに、金融機関までがついていることです。そういった中で、最後まで頑なに乗ってこなかったのはエクソンモービルとかBP、シェブロン、シェルといった、いわゆるオイルメジャーでした。
 実は今も、彼らはまさに闘っている最中です。彼らは投資家からプレッシャーを受けています。あれはお金のたくさんいるビジネスですので、投資家や銀行にお金を注入してもらわないとうまくまわらない。でも、銀行からもプレッシャーが大きくて「やってます。ちゃんと考えてます!」ということは頑張ってプレゼンしつつ、「とはいえ石油も大事です」となるので、「本当か?」と突っつかれている真っ最中です。

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あらゆる事象は唐突に起きることはなく、背景に文脈がある。世界的なエネルギーの転換にもある文脈を理解すると、
これが一過性なものではないことがわかる。ドラマチックでワクワクする夫馬さんのお話、次回は来週月曜日公開です

 

(取材:平井有太)
2019.05.13 mon.
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夫馬賢治

株式会社ニューラル代表取締役CEO。みんな電力顧問。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。同領域ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。環境省ジャパン・グリーンボンド・アワード選定委員。東証一部上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。ハーグ国際宇宙資源ガバナンスWG社会経済パネル委員。講演、新聞や雑誌への寄稿、ラジオ出演等多数。ハーバード大学大学院在籍。サンダーバード国際経営大学院MBA修了。東京大学教養学部国際関係論卒。


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