2019.08.19 Mon.

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  来たる8月28日、エネルギーの世界に新しい「史上初」が刻まれる。10月1日までの約5週間、新宿BEAMS JAPAN1階にて、電気の店頭販売が実現するのだ。
 「え、電気ってお店で売買できるの?」という質問は至極自然なものだろう。その発端には、BEAMS JAPANでディレクターをつとめる鈴木修司氏が打ち合わせの場で発した、「今や電気もモノだと思うんです」という一言があった。その場に居合わせたみんな電力の誰も、それを考えたことも、よもや実現させようなどとは思っていなかった頃の話だ。
 BEAMS JAPANは2018年8月より、みんな電力通じて、福島県南相馬市にある野馬土発電所の太陽光発電による電力を導入してきた。
 そもそもは2016年4月のオープン以来、全国各地が誇る名産品、郷土文化を新鮮な切り口で掘り下げ、若い世代を含め幅広くその魅力を伝えてきたBEAMS JAPAN。同年同月は奇しくも、電力自由化が実現した月でもある。つまり期せずして、そのオープンから自由化後の電力と並走してきたBEAMS JAPANが、全国の名産品を扱ってきた先で、産地のある電気の店頭販売を実現させることは必然だったのかもしれない。
視察写真5

全国を自分の足で巡り、魅力的なコト、ヒト、モノを探し続ける鈴木さんと太田友梨さん

ー今回の企画の実現には、鈴木さんが仰った「今や電気もモノだと思う」という発想と言葉にすべてが集約されている気がします。それは少なくともみんな電力から出てきたものではなく、しかし関係者誰もがそこに引っ張られて動いているという。
パンフレット写真

監修に箭内道彦氏、イラストに寄藤文平氏という布陣のふくしまものまっぷ。ここに「ふくしまの電気」が早く並んで欲しい

鈴木 実はその発想の元になっているのは、電気のことでも福島のことでもないんです。それはこのBEAMS JAPANが立ち上げられる時、僕に課された使命なんです。
 BEAMSは小売業です。もちろんオリジナル商品をつくったりもしていますが、かたや社会はネットもお店も日本全国、地方も含めて飽和状態と言える状況です。その時、社長は「今のままのビジネスを続けていくのは難しいよ」という話を、社内で常々していました。
 だからBEAMS JAPANは立ち上げに際して、日本中のお客さまだったり、これまで助けてくれたメーカーさまや関係者への恩返し的な事業であると同時に、今まで蓄えた「知恵とかセンス、ノウハウを具体化する」いうことが大前提としてあったんです。そしてその中で、例えば「ふくしまものまっぷ」という企画は福島支援の意味合いを込めて、利益から離れたところで始まりました。
 あれも継続しながら結構な評価をいただいて、今しっかりと2年目に入っています。「福島の魅力を改めて語ろう」という時、あれはまさに「まっぷ」というだけに、一番の元になったのは大きな地図でした。
 とはいえ「ふくしまものまっぷ」と言いながら、そこにはヒトがいてコトもあり、その中からBEAMSがお客さまに期待されているのはお買い物なので、そこでまずは「モノを切り出そう」という、そういうスピンオフ的な経緯が最初にあったんです。
H30.4月:赤べこ&ベコ太郎
 しかしそれを1年もやると、ふくしまものまっぷ企画の中ですら、「やっぱりモノだけだと限界あるな?」となってきました。をやったり、会津木綿赤べこをやってみたり、「モノはもちろんいいんだけど、それだけでは福島の魅力を語りきれない」ということに気づき、その時に「飯坂温泉」を切り口にしたんです。
H30.9月:飯坂温泉

飯坂温泉名物のラジウム玉子も、BEAMS JAPANの手にかかればおシャレなお土産に

ー「モノ」が最後の窓口ではあるけれど、場所や人を取り上げ、結果的には眠っている地域の魅力を引き上げていこうという狙いだった。
鈴木 そんな中、BEAMSが原宿と新宿の店舗でみんな電力さんから電気を供給いただくということになった時、「福島の電気も『モノ』として捉えればいいのでは」という閃きがきたんです。
 つまり大きく辿れば、BEAMS JAPANを立ち上げる時に、僕はそもそも「モノ」ということを頭から外していました。それは、これから売り物になるのは「モノだけじゃないぞ」と。
ー思考として、それまで価値や実体があやふやだったり認められていないものに、もちろん最終的には小売業なのでモノを売るんだけれども、潜在的な価値を掘り起こす作業をしてこられた。
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鈴木 僕はBEAMS入ってもう22年目になります。最初店に9年ほど立って、その後事務所には入りましたが、とはいえ間接的にお客さまとは接してきた中で、自分を含めて、今のお客さまの傾向というものがあります。
 もちろん世代、その人にもよりますが、現代は基本的にモノを持ちたがらない。今やパソコンさえも会社のを使ったり図書館に行ったり、車にはカーシェアリングみたいなサービスもあります。一人一台とか一人一つみたいな、モノを持つこと自体が厳しい、「モノじゃないものでお客さまは満足する」となった時、何かそこで「従来のかたちではないモノを売っていかなきゃいけないな」ということは、僕自身が「JAPANをやれ」と言われる前から感じてはいました。
 だから、「これからの世の中はモノじゃないんだ」と。それは、「モノ」という定義そのものの部分が変わってきているんだろうなと思います。
ー今伺っているお話は、服だけじゃない「日本文化に着目したのがBEAMS JAPANだ」と思っていましたが、もっとその先の「これからのモノとは何か」みたいな意識まであったというのが興味深いです。その部分、手応えはいかがですか?
牛乳石鹸
鈴木 ここまで手応えは無茶苦茶感じています。かつ、これは少しいやらしい話ですが数字にも繋がっていて、BEAMS JAPAN自体は4年目で、ずっと右肩上がりで集客も売り上げも上がっています。それはなかなか難しいことで、普通新店舗は一年くらいグンッと上がってその後必ず落ちるんです。
 そこがしっかり維持できているというのは、例えば牛乳石鹸のオリジナル石鹸を一緒につくったり、他に銭湯グッズを売り出す時も、「一緒に銭湯文化を発信しましょう」ということで東京中の銭湯を巻き込んで展開したんです。それはただ「買い物しましょう」ということでなく、そうやって文化そのものに寄り添って売り出すことで、実際の数字にも反映されてくと。
 だって、お買い物をしてくれるということは、「関心がある」ということの一番の証拠じゃないですか。だからそこは手応えアリですよね。
ー確かに「銭湯」そのものは場であり、そこではお風呂の効能の他にコミュニティのハブとしての役割が生まれたり、、
銭湯
鈴木 銭湯には入浴料が必要ですし、BEAMSでの買い物にももちろんお金は必要です。でもこの場合それはお風呂と買い物だけじゃなく、東京の銭湯をスタンプラリーでまわってる最中に近くのいい居酒屋に寄ってビールを呑んだとか、安直な利益以上の、有機的なものが生まれます。
 あれは、そうやっていろいろなところが活性化されて、その結果として、それまで銭湯に行かなかった人たちも銭湯に行くようになるということを見据えての仕掛けでした。
ーまわりのすべてが、銭湯にまつわる価値と言える部分である。
鈴木 もちろん微々たる影響力しかないとは思いますが、そういう銭湯の企画をやったおかげで「実際に若い人が増えた」ということを浴場組合の方から褒めていただきました。
 だから無理矢理話を繋げるわけじゃないですが、エネルギーについてはそんな僕でさえ、みんな電力さんとの出会いがあって改めてエネルギーのことを考えたくらいなわけです。だから今回の企画で、それが数人か数十人かもわかりません。でも、これがきっかけになって「あ、電気って選べるんだ」、「エネルギーの産地なんて考えてなかった」みたいな人が増えて、それが他のところの違う企画に繋がっていってくれたらと思います。
 そうしてどんどん電気に対しての感覚が社会の中で変わっていく、「そのきっかけになれたらすごいな」と思っています(笑)。
ー銭湯が盛り上がるみたいに、電気も盛り上がる状況を夢見てしまいます(笑)。
鈴木 「オレさ、今月は福島から電気買ってるんだけど、来月は熊本にしようかな」、「なんかいいプレゼントがついてくるんだよね」みたいなことになったら、面白いじゃないですか!「ニュースで見たんだけど、台風大変そうだから広島の電気にしようかな」とか、今まではただ毎月同じように自動的に払っていた電気代を使って、そういう楽しみが増えたらいいですね。
ー以前インタビューをした長野県の元副知事さんは電気の機能について、「疲弊していく地域に活力を取り戻すことができる」と仰っていました。それは、今まではただ大きなものに吸い取られていた電気代を、まず自分たちがつくることで地産地消ができる。しかも余れば外部に売ることができ、経済的な循環が根本的に変わる。お話を伺っていて、すでにBEAMS JAPANは電気以外のモノで、そういうことをなさってきたんだなと理解できました。
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鈴木 ウチはそれがなんであれ、「きっかけになれたら嬉しいな」ということです。BEAMS JAPANだけではそんなにたいしたことはできません。でもそこで誰かと繋がったり、何か企画を実施することできっかけになれたら、それだけで十分嬉しいなと思っています。

 

まさに史上初の電気の店頭販売の「きっかけ」となった鈴木さんが根幹に持つ想い、いかがでしょうか?
来週月曜26日の後編に続きます。

 

(取材:平井有太)
2019.08.13 tue.
視察写真4

鈴木修司

1976年生まれ。三重県松阪市出身、鎌倉在住。1998年にビームス入社。メンズ重衣料からメンズカジュアルウェア、そして“fennica”の前身である“BEAMS MODERN LIVING”の店舗スタッフ、その後に“fennica”のMD、 “B:MING LIFE STORE”のバイヤーを担当、現在は“BEAMS JAPAN”のバイヤーに従事する。


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