2020.01.29 Wed.

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  「顔が見える電力」を掲げていて、それは発電所の皆さまだけでなく、実はもっと早く「みんな電力の社員インタビューシリーズ」をやるべきかもしれなかったENECT。結果的に、この梶山喜規さんがその第一弾となります。
 梶山さんは文中、電気のあり方について「『ある程度の納得感』があって『大反対する人がいない』、それでいて『致命的な被害を受ける人がいない』ような仕組みをつくるしかない」と仰います。
 「消費者が自分の使う電源を選べる仕組みをつくりたい」と言って東電に入り、関わってない人がいない「電気」について、誰か特定の個人はもちろん、ある立場や組織を特に優遇することができない/すべきでない仕組みのあり方を考えてこられた梶山さん。
 みんでん登山部による奥多摩・御前山登山の写真とともにお送りする全3回記事、この第2回も充実の内容です。ぜひ。
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—当時から、標榜しているものがみんな電力と酷似しているように聞こえます(笑)。
梶山 その時は、今のみんでんほど「誰がつくった」までは考えていませんでした。でも、「太陽光」や「風力」といった電源種別のイメージが強くありました。
 どちらかというと、自然エネルギーを使った電源が、消費者サイドの声でつくられていくような「仕組み」に興味がありました。
 だからそれは、「自分が発電所をつくりたい」というよりも、そういう風な仕組み、制度にしてしまいたかったのでした。
—京大の法学部から官僚になるようなキャリアより、もっと市民生活に直結したところで仕組みづくりをしたくて、電力会社を選んだ。
梶山 もともと大学では行政法という、法律の中でも行政に近いところをやっていたので、身の回りには官僚になる人間が多くいました。個人的には環境省や地方行政にも興味があったので、就職先には京都府なんかも考えました。
 でも、それらは当時僕が話を聞いたり、調べた限りでは、誰かがつくったものに対して「やっていいよ」、「もっとこう変えたら」みたいな、ある意味で受身な感じがしたんです。それより自分はもっと「事業がしたい」と思って、それで電力会社にしました。
—より、現場に近いところに。
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梶山 そうです。
 それで、東電の面接の時もそんなことを面接官に伝えて「じゃあ、中から変えてみてくれ」ということで入ったんです。「東電を変えたい」と言って、当時から料金メニューのことまで含め、消費者が電源を選択できるような電源プランの構想の話までしたか今となっては記憶も曖昧ですが、それが20数年前の話です。
 東電という組織には、会社として技術屋が7割くらいで事務屋が3割くらいいます。その中で僕は事務屋になったわけですが、需給管理なんかは技術屋の領域です。でも、法令に基づきつくられた、約款などの実務ルールに則って書類をつくる作業はもっぱら事務屋の仕事です。その担当部署に入社3年目くらいに配属されて、そこから東電を辞める13年間くらい、そこにいました。
 途中電事連に出向して2年ほど抜けていますが、そこでも同じ分野で、同じことをやっていました。10社間の調整をして、会社によって多少なり違ってくる意見を業界内でとりまとめ、それで経産省と協議するのが仕事でした。
 一社一社が経産省と協議をする場合もあるんですが、共通ルールは電事連が集約するんです。反対する会社があれば意見を聞いて、修正するならするで他の会社との意見も含めてとりまとめるという作業でした。
—目に見えない、言ってしまえば鵺のような電気というものについて、しかもそれぞれに巨大な10社間でまとめていくという作業の苦労は想像しにくいです。
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梶山 結局は交渉ごとなので、どう「納得感が得られるものをつくるか」という勝負になってきます。10社みんなが「そうだ、そうだ」ということはまずないですし、電源構成一つをとってそれぞれに違います。
 原子力、火力、水力、再エネみたいな区分が一応はあるとしても、火力と一言で言っても石炭が多い場合もガスの場合だってあるし、水力が多い地域であれば、豊水か渇水かで収支が大きくブレるんです。豊水でも渇水でも費用は全然変わらないのに売り上げが全然違ってしまうので、渇水の場合は火力を焚かないといけなくなって、それなのに売り上げが一緒ということは収支が悪くなります。
 だから、渇水の時に切り崩せる基金みたいなものを準備する仕組みがあったんですが、「水力の比率なんて1割もないから、それいらないよね」ということで制度の廃止を検討したことがありました。でもそれも、結局は10社の意見がまとまらずに維持されたんです。
 そういうのも、火力でも石炭とガスでは、個別に何かしようとする時の影響が全然違ってしまうので、なかなかまとまりません。それはその時その時で最大公約数みたいなものをとって、場合によっては強気に、「これでいきます」と言うしかいかないこともあって。
—そういうことも全部経験されてきて、これはやはり大きな電力会社が市場を独占し続けるよりも、分散化を推し進めるべきでしょうか?
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梶山 それも結局、電気を使う人たちの「納得感」だと思っています。それは、これがもし「技術的なエネルギー効率」みたいな話になってしまうと、それこそ一ヶ所にギュッとまとまって住んで、その上で一ヶ所で発電をして、その排熱も利用して、まとまっている住居に温水供給もしてという方が絶対にいいんです。理屈で考えると。
 でもそこは、そんな国家管理みたいな社会のかたちでいいのかという話になると、必ずしもエネルギー効率が絶対でもないと思っています。そういう、「技術で図れる、決められるものじゃないんじゃないの?」という。
 結局は、「最大多数の最大幸福」と言ったのはジェレミ・ベンサムでしたっけ?そういう話になってしまいます。つまり、「ある程度の納得感」があって「大反対する人がいない」、それでいて「致命的な被害を受ける人がいない」ような仕組みをつくるしかないんじゃないの?と思っています。
—そういった状況は、日本社会において可能なんでしょうか?
梶山 極論、僕が一番好きなのは電気がなくて、携帯の電波が繋がらないところなんです。そうすると、奥深い山の中が一番気持ちいい(笑)。それがなぜだかは、自分でもわかりません。
 でも、例えば昔はドイツってすごくいい国に見えましたが、必ずしもそうでもないという話も聞きます。20数年前だと、環境先進国としての「ドイツに学ぶべき」みたいな本は溢れていました。
 その一方で、エネルギーの観点からしてもドイツは石炭を大量に使っています。それは労働者の保護でもあるし、地元で採れる石炭は使った方が価格も安くて産業の競争力維持にもいいということで、そこを考えると、結局は「削減量の見せ方がうまい」ということなのかなという気もします。
—さっき仰っていた、理想としての「一ヶ所にまとまって住んで、一ヶ所で発電をして、その排熱も利用して」みたいなことは、すでに北欧で実践されていませんか?
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梶山 北欧もそうかもしれませんが、国内でも北海道の下川町という町で、そこは10年くらい前から自治体の方々がそういった構想をしていました。それはもちろんエネルギーだけの文脈じゃなくて、行政サービスとしても、みんなが集落にポツポツ住んでいるとお金がかかって、町の財政として耐えられない状況があったんです。
 ただ逆に、あまりにも管理統制された地域について、住んでいる人にとっては窮屈な感覚があることがあります。日本人がヨーロッパに行くと「街並みが統制されていてきれい」となるのが、ヨーロッパ人が日本に来ると、「好きな家が建てられて自由で素晴らしい」みたいなことを言うわけです。
 ないものねだり的なことは常にあって、コンパクトシティ的なことはもちろん効率的で正論なんですが、同時にそこにはまりたくない人や考えも出てくる。ですから、結局はどうやって「合意形成を図るか」みたいな話になっちゃうんです。
—エネルギーを通じて、「民主主義とはなんぞや?」みたいな話になっていく。
梶山 僕が基本的に一番大事にしているのは、「自由」です。個人個人が自由に、自分のしたいように生きられる。でも、他の人の自由を奪うような迷惑をかけないような自由を、電気でも実現できればと思っています。
—東電ではそれは実現できなかった?
梶山 僕がいた頃の東電はまだ低圧まで自由化していなかったので、今の東電とは違うとは思います。しかし当時の感覚として、重要なのはまず「公平性」なんです。だから個々の意見は、あまり聞いちゃいけない。つまり、ある人にこうしたら、他の全員にもこうしないといけないという、自由よりも平等が重んじられるわけです。
 自由と平等は対立概念かもしれない(笑)。
 そもそも電気の仕組みを考える時に「個々の自由」というのは、むしろやってはいけないことでした。例えば電源の特定となると、「この人にこの電源を売ったら、他の人には売れないってことだよね?」となります。だから、全員同じ平均なんですという発想になるんです。
—言われてみれば、「誰のこともえこひいきしません」というのは、間違っていない気がします。でもなぜか、最終的なアウトプットはどこか違うかたちになってしまうというか。
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インタビューは山の中でなく、三軒茶屋のみんでん社内で行いました。写真は社内にある「スナック再生」にて

梶山 そして、全体がその発想でできているのかというと、全然そんなことはありません。料金にしても、高い人と安い人がべらぼうにいるわけです。使用量の少ない人は安いし、また、産業を保護するために大規模製造業は安く、その分オフィスとかの業務には高く売っています。
 経産省の監督のもとで、そういった部分を電力会社が担ってきたんですが、自由化するとそんな役割も担えなくなります。となると、また新たな仕組みを別の手段でつくるしかないんです。今はまだ、そこは整理されていません。
写真(梶山喜規)

梶山喜規

京都大学法学部卒業後、東京電力に入社。15年間の在籍の大半を料金制度部門で過ごし、小売料金戦略策定や託送料金設定等に従事。その後出光興産を経て、2015年から新電力大手エネットにて全面自由化に対応した低圧法人向け電力小売事業に携わる。2019年7月よりみんな電力にジョインし、法人営業および地域新電力立ち上げ支援を手掛けている。

理系の世界と思われがちな電気の世界。しかし、そこを突き詰めると実は哲学的な要素も、、最終回は来週水曜の公開です

 

(取材:平井有太)
2020.01.12 sun.


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