2020.05.07 Thu.

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石器時代が終わった理由は石がなくなったからでないように、化石燃料の時代と言える現代も、化石燃料の枯渇ではない理由で終わるわけで、、

  ENECTはコロナ禍、緊急事態宣言を受けて、通常の水曜週1更新から月曜と木曜の週2回更新を続けています。
 通底するテーマは、「新型ウイルスと気候変動の関係」とは?
 今回もエネルギー女史・上田マリノさんと一緒に、茨城県はつくば市にある国立環境研究所から、ダニ先生こと五箇公一先生に続き、同研究所・地球環境研究センターの江守正多副センター長に迫ります。
 子どもからお年寄りまで、誰にでもわかりやすく気候変動問題と、その解決策を伝えてこられた江守先生。しかしこの状況にあって、根っこの問題を共有しているのは確かながら「気候変動対策の本質は、今コロナでやっている自粛やステイホームのような我慢ではない」。それよりも、積極的に活動して「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」という、しごくポジティブな思考と姿勢が大切ということを説かれます。
 今一度、私たちがこの社会をサステナブルなものとするため、何ができるのか。ブレない想いと行動を共有すべく、先生のお話に耳をお傾けください。
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「気候変動のリスク」と言われて何のことかピンとこなくても、特に代表的な8つについて、最近より身近なところでよく起きたり、聞いたりしませんか?

—今回の新型ウイルスの登場は、実は環境系の研究者さんたちの間では相当以前から警鐘が鳴らされていたということを聞きます。先生のご専門の見地からも、それは同じですか?
江守 一つには、人間活動が自然界に侵食し、踏み荒らしてきた結果ということは言えると思います。
 あとは、グローバル経済によってモノとヒトの移動が非常に激しくなっていますので、こういうことが起きる可能性はどんどん高くなっていたということも言えます。
 気候変動と異常気象の関係も一緒ですが、人間活動が原因で必然的にこういうことが起きたという因果関係までは証明できません。でも「人間活動が背景にあることによって、こういうことが起きやすくなっている」とは言えるんじゃないかと思っています。
—こういった事態がいつか起きるということが皆さんの共通認識だったとして、では近代史において「ヤバい領域に入ってしまった」とされる事象はありますか?
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江守 気候変動の場合は、あるポイントを超えると世界の破滅が一気に起きるわけではなく、少なくとも今のところ現象は散発的です。ある年はある場所で大雨だったり、別の場所では大干ばつ、森林火災などが起きていますが、一つ一つはその場所にとってのイベントです。もちろんそれらを総体的に見れば、かつては起こりえなかった頻度や激しさであることが見えてくるんですが、まだ全体的な激しさはジワジワと高まってきている状況です。
 つまり気候変動は、今回のコロナほどにはわかりやすくない。もちろん異常気象が直撃した場所ではそれはそれは悲惨なことになっているんですが、それが自分のところにない限りは他人事でいられる。ただそれがいつ自分のところにくるか、その可能性は高まっているし、世界全体を俯瞰して見ても増えていると。
 コロナは世界で一気にきたし、気をつけないと自分や自分の家族が本当に死んでしまうかもしれないという話なので、言い方は変かもしれませんが、「よりわかりやすい」という感じはしてます。
 じゃあこれが科学的な意味で、何らかの決定的な出来事、ターニングポイントだったのかと言われるとわかりません。でも少なくとも、社会的には決定的な出来事になりました。コロナによって、世界中で社会の在り方の認識を変えるような出来事が起きています。気候変動も似たような大きさとグローバル感を持っている出来事ではあります。ただ、もっとジワジワと起きることなので、ここまで瞬間的なインパクトはありません。
—気候変動の影響は他人事とはいえ、日本はすでに直撃しているように思えます。
江守 しています。ただそれも、厳密に自分の住んでいるところに来ない限り、テレビの中の出来事です。
 もちろん影響を受けている人はいっぱいいます。一昨年の西日本豪雨とか、去年の大風15、19号だってそうですし、熱中症で亡くなっている方だって一昨年の時点で1500人ほどもいます。それらは大変なことなんですが、まだまだそれでも日本人の感覚として、「気候変動はテレビの中の出来事」という感じなんじゃないかなと。
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上田 気候変動が進むと南にいる生物とウイルスが北上したり、永久凍土が溶けて未知のウイルスや菌はそこからも出てくるという話は知っていました。でも、思っていたよりもずっと早くきたなということと、しかもそれが局地的でなく広範囲に影響を与えました。
 かたや今の若い世代は、私も含めて気候変動の問題に対してアクションをしてきました。でも、それをやってもすぐに意味がないのかもしれない、変化を起こせるとしてもそれは自分たちでなく、次の世代に向けてということになるのかなという。
 その立場で今回のコロナの影響を目の当たりにすると、私には特に3歳の子どもがいます。考えると、ライフスタイルをサステナブルにすることが、感染症も含めて気候変動対策になるという、そこをくじけずやっていくことくらいしか個人ができることはないのでしょうか?
—ジワジワとくる気候変動とはいえ、本来は生活に直結する問題です。でも、なかなか普通に暮らしている市民が、日々の生活に忙殺もされていますし、感度高くいられない現実があります。
江守 確かに蚊が北上してテング熱とか、永久凍土から古代の未知のウイルスが出てくる可能性というのはあります。それにしても、今回コロナのケースは急激でした。
 コロナに関して「気候変動自体が直接的に影響を与えて起きたか」というと、そこは現時点ではわかっていないし、たぶん、そうは言えないと思います。もちろん間接的に、気候変動によって起きた生態系破壊みたいなことが、ウイルスが出てきた原因の一部であるかもしれません。でも、少なくとも僕にはそれはわかっていません。
 それよりももっと根っこのところで関係があるというか、人間活動による生態系破壊やグローバル経済といったものと、気候変動を起こしている、直接的にそれは化石燃料の燃焼なわけですが、それを止められない世界の経済システムというものがあります。
 前提の認識として、それらは同じものです。その意味において、コロナと気候変動の問題には共通項があります。
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 その次に、私たちに「何ができる?」、「アクションを起こして意味があるのか?」ということがあります。それに関しては、コロナと気候変動で似ているところと違うところがあると思っています。
 まずコロナに関しては「個人の行動変容」ということが、問題全体において決定的な役目を果たします。それは今、「接触機会の8割削減」ということが言われるわけですが、個人が「出歩かない」、「人に会わない」、「人と近くで喋らない」、「手を洗う」、「消毒をする」ということを一人一人がやるということが、この問題を当面封じ込めることにおいて決定的に大切です。そしてそのために店を閉めないとならないし、じゃあ「補償はどうするんだ?」ということが議論になっています。
 そことの比較で考えると、気候変動で個人が当面できることというのは、コロナの接触削減に当たるものがCO2排出削減になります。それは自分の生活の中で、なるべくCO2を出さないようにするのは、個人の立場でできることだし、今までもそこを意識して行動してくださった方々はそれなりにいらっしゃったはずです。
 それはもちろん素晴らしいことなんですが、実は気候変動の場合の「生活からCO2の排出削減をする行動」というのは、コロナにおける接触削減ほど本質的な重要性を持たないんじゃないかと思うんです。つまり、気候変動の場合は「あと30年で世界の排出量を実質ゼロにしないといけない」という話なので、自分たちが行動の中で多少気をつけてエネルギーを使う量を減らしても、正直そんなに変わりません。
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 そして今年期せずしてこれだけ世界で経済を縮小して、結果的にどれだけCO2排出量が減るかというのは、ある意味でものすごい実験をしていることになります。
 2009年のリーマンショックでも相当経済が縮小したと言いはしましたが、CO2の排出量は2%くらいしか減りませんでした。今だってものすごくみんなが経済活動を止めて、「半分くらいはCO2が減ってるんじゃないか」と思いがちですが、家にいても電気は使います。そしてスーパーに物を運ぶため、Amazonの倉庫へもトラックは走ってますし、電車は空でも動いているわけです。ですから、実はエネルギーを使う活動はそんなに減っていないと思います。
 となると「活動の縮小」は、残念ながら本質的な「気候変動を止める」ところまでの効果は持ちません。そこだけに頼るわけにはいかない。そこが、コロナとの大きな違いでもあると思います。
 気候変動の場合は、そこを超えて、まさにこれはみんな電力さんの事業とも大きく関わることになる部分と思いますが、最終的には「再エネ100%の社会を目指す」と。それには「人々がどんなに活動をしてもCO2が出ない」という、社会を「そういったエネルギーシステムに変えてしまう」、そこを目指しているわけです。
 個人としても、そこをめがけて考えて行動していくのが、これから非常に重要なことだと思っています。それは、自分が人知れず省エネをやって、自分は頑張ったので、「もうあとは偉い人に任せます」ということでは決してないんです。
 つまり、社会の中で化石燃料が減って再エネが増えるのを、どう「個人として後押し」できるのか。その発想で個人もアクションをしていくことが、今後とても重要です。
 気候変動の文脈で、我々が目指しているのは「脱炭素社会」であり、電力も交通も最終的に全部が脱炭素エネルギーになればいいと思っています。その状態はコロナに置き換えると、治療薬とかワクチンが開発されて普及した状態に相当するんじゃないかと思います。
 つまり、今は我慢をしてるけど、最終的には「治療薬とワクチンが開発されて、この状態を克服する」ことが出口なわけです。その点において、コロナの場合は「今我慢すること」がすごく大事であると。
 それに対して、気候変動の場合は「脱炭素社会になる」という明確な出口があります。みんなでそれを目指すことはもちろん大事で、でもその時に「我慢」はあまり本質的ではない。むしろ積極的に活動して、「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」ということがとても重要になってきます。
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 僕がここをすごく強調するのは、コロナ対応はすごく我慢、自粛する社会的ムードになっています。それでCO2も減っているとなると、「もっと我慢すれば温暖化も止まるのか?」という発想になるかもしれない。でも、その考え方は危険です。その発想では結局、「コロナでこれだけ我慢して、その後に温暖化のことなんて、もう考えるのも嫌だ」という風に、多くの人はなってしまうように思えます。
 そうではない。
 「気候変動対策の本質は、今コロナでやっているような我慢ではありませんよ」と。それはもっと前向きな話であって、新しいエネルギーシステムとか交通システムと、食料や都市のシステムに社会をアップデートしていく。それを「どう、みんなで実現できるか考えましょう」と。だからそこが我慢ではなく、しごく前向きでポジティブなのが、気候変動の話なんです。
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江守正多

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。2018年より地球環境研究センター 副センター長。社会対話・協働推進オフィス(Twitter @taiwa_kankyo)代表。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に『異常気象と人類の選択』 (角川SSC新書、2013)、『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(化学同人、2008)、共著書に『地球温暖化はどれくらい「怖い」か?』(技術評論社、2012)『温暖化論のホンネ』(技術評論社、2009)等

テレワークやZOOM会議が一気に普及したように、取材もネット経由で3人での対話が普通に。第2回は11日(月)公開です

 

(取材:上田マリノ/平井有太)
2020.04.22 wed.


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