2020.06.22 Mon.

(TOP写真について)エレンマッカーサー財団が提示するCIRCULAR ECONOMYの3原則。経済・産業活動をこの原則に適合させてRETHINK、REDESIGNしていく

  戦後の高度成長の記憶や、超大国間の競争に翻弄されない、地域とそこに根ざした文化、人、自然資本に根ざした持続可能な社会のかたち。それがもし本当に、EUが生き残りをかけてひねり出した概念であろうとも、地球のそのものの持続可能性を根源とする格差のない人間の幸福を考えた時、サーキュラーエコノミーへの移行には必然性がある。そしてそこに、日本がそもそも大切にしてきたライフスタイル、価値観の共通項が見い出せるのは、偶然ではないだろう。
 サーキュラーエコノミーの伝道師、中石和良さんに伺ってきたお話も遂に最終回。
 コロナがきっかけとなって加速してくれた、新しくも、すでに私たちは持っていたし実践していたこともあるという意味で普遍的な価値観を、では改めて、どのように社会に伝えていくか。
 国境や世代を超え、この地球上に生きる、すべての人にとって考えるきっかけとなる記事になりました。多くの人々に届きますように。
ー今回COVID-19が教えてくれたことの一つは、「一極集中することのリスク」だったと思います。それと同時に、東京の人口が1400万人を超えたというニュースもありました。分散を促すようなことは起きないでしょうか?

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中石 これから多少は、地方分散に動き出すことは、間違いないと思います。でもそれが大きなトレンドになるかといえば、難しい。であれば、都市の中でまさに「分散型をどうつくれるか」という考え方がサーキュラーエコノミーにあります。
 例えば今、歩行者用の歩道は狭いですよね。自転車用の道もない。じゃあ、車用の道路を狭くして、人が歩いたり自転車が走る道を広くするというのは、まさに今回コロナのきっかけで始まるんじゃないでしょうか。
 今ヨーロッパの各都市やNY、メキシコシティなんかがやっていることがそれです。歩行者、自転車を優先して道を広げていますが、日本は道路自体が広くないということはあります。また、自動車の交通量をどう減らすかという施策も同時に必要です。
 ですから、「都市をどうするか」という中で車用の道路のこと。あとは食料システムもまた、環境に大きな負荷を与えている領域です。
 森林を開墾して農地に切り替え、大量の農薬と化学肥料を使って土地を痩せさせて作物を栽培する。そして、食品廃棄をサプライチェーンの様々な場所で生み出し、しかもできたものが「人間の健康にいいものなのか?」という問題がつきまといます。
 そういった食のシステムのサプライチェーンを変えていかないといけない。しかも、食べる人の健康を向上させる食品をつくらないといけない。そこを手掛けることが、サーキュラーエコノミーの概念で次に出てきたアプローチです。
 再エネ、プラスチック、ファッション産業、都市、食品システムといった流れでトレンドをつくろうとしています。
ー現時点で頼もしく感じるお仲間、ムーヴメントはありますか?

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CIRCULAR ECONOMY JAPAN法人会員と外部連携機関(サステナビリティ特化メディア、アカデミア、欧州情報が豊富な情報発信機関等)

中石 今我々、サーキュラー・エコノミージャパンの会員になっている法人さんは、ほとんどが中小企業です。そのトップの方々のリーダーシップをもって会社全体が動き始め、「我々と一緒に経済システムを変えていこう」というメンバーが集まっています。法人会員は現時点で20社強で、それとは別に個人会員が2、30人います。
 一方で大企業の方々と話していると、そこはまだ「社会を変えていくためのビジョンをつくろう。全社一丸となってやろう」ということがトップダウンで動き出しているかというと、まだまだ少ないと思います。
 いわゆるESGの概念で、「ESG投資に対応するESG経営をどうしていくか」とは言いつつ、そこはしかし「サステナビリティ報告書や統合報告書をつくるためにやってきたんじゃないの?」ということも多々あります。
 とはいえ、企業内でも特に若手の方々はすごく危機意識を持たれていて、たくさん問い合わせがきます。一緒に概念を共有しながら、それを「経営層に伝えて取り組みたい」というところまではいくんですが、それを社内でプレゼンすると止まってしまうということがよくあります(笑)。
ー大企業でも若手や現場レベルには、サーキュラーエコノミーが響き始めている。
中石 その時に皆さんが言われているのは、「上層部から短期的な利益ばかりが求められる」ということです。今期であったり、長くても中期計画の例えば3年間で「どう収益を生み出して、組織に貢献するんだ?」というような発想です。
 それでも、4、50歳代の中間管理職とか経営層の中にしっかり長期的な思考でビジョンを描こうとしている人もいて、従来型の発想しかできない人たちとの、大きな差が生まれています。
ーサーキュラーエコノミーの取り組みは、もともとの想像よりも早く動いていますか?

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中石 欧米や中国ではそうです。思った以上に早くて、ヨーロッパではEUと各国の政策があり、明確なビジョンが出ているので、企業もそれに倣って動きます。一方でアメリカの場合は、連邦政府ではなく州や都市単位で明確な政策が出ているのと、あとはグローバルな著名企業が明確なビジョンを設定して取り組んでいます。それも私の想定以上のスピードで、毎日の単位で情報をキャッチアップするのが大変なくらいです。
 一番大きなポイントは、今回のコロナ・パンデミックを契機に、今言ったような欧米の政策立案者やグローバル企業は、気候変動政策やESG経営をむしろ加速しようとしています。かたや日本には、これをきっかけに元に戻ろうとする企業もいらっしゃるように見受けられます。
 けれども、それでも日本において、これをきっかけに新しい持続可能な繁栄をしようという人たちも出てきています。じゃあ、そういった皆さんと一緒に何とかリーダーシップをとっていって、「方向性を変えていきたい」というのが現状です。
 今僕たちが期待している一つは、東京都が去年の12月27日に公開した「ゼロエミッション戦略」です。2050年までに東京都をCO2、GHG=温室効果ガスの排出を実質ゼロにしようとしています。そのビジョンに対して、様々なセクターでのロードマップが明示されています。それらと連動しながら、「東京都と一緒に循環型の新しい経済システムを生み出せたら」とは思っています。
 でも日本の政策や企業の長期戦略というものは、絵は描いても「こうなったらいいね」という期待をしているだけで、具体的に「こうやって結果を出していく」というところまでは落とし込めません。それを実現させる力技が必要です。ですから我々も、その腕力の部分で何かできないか、考えています。
ーコロナは、もちろん社会として大変なことではあるけれども、サーキュラエコノミーとしては背中を押してくれる、強いきっかけになりそうでしょうか?

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サーキュラーエコノミーはリサイクリング・エコノミーの延長線上では無いということが重要なポイント。思考をガラリと切り替えないといけない

中石 明らかにそうだと考えています。
 つまり、欧米を中心として世界は、(日本を除いて)一気にそちら側に動き出しています。じゃあこれをきっかけに、持続可能でレジリエントな社会経済をつくっていく。「景気対策や経済復興を支援する公共資金は、気候変動の解決に活用する」ということで、日本でも環境省もその方針を出してはいます。
 EUやカナダは、復興のための景気刺激策の企業向け投資や補助金は、基本的には気候変動対策にひも付けています。「復興のためのお金を使う時は、毎年気候変動に対してどういう取り組みをするかという報告書を出せ」とか、「この資金は持続可能性に向かう開発に使う」ということが明確でないと、そもそも支援を受けられないケースが多くなっています。
 そういった動きにおいては、「無差別に景気を回復させよう」という発想ではありません。
 大事なのは、長期の明確なビジョンです。日本はまず、例えば「2050年にどういう国になるべきなのか」という明確なビジョンを描いて、その上で官民が同じ方向に向かえるようなリーダーシップをとっていただきたい。日本は世界においてどんなポジションをとって、今後どう新しく幸せな経済成長を生み出していけるのか。いくら単発的に「デジタルトランスフォーメンションだ」、「気候変動だ」と言っていたところで、明確なビジョン設定とロードマップがなければ方向性が定まりません。
 あとは、どう欧州の倫理的な枠組みに寄り添いながら、中国やアメリカとは違うデジタルの仕組みを日本がつくり込めるかという点も、重要になってきます。
ーこういった動きは既存メディアを見ていても、なかなか取り上げられません。一般的な、環境やエネルギー問題とは別のところで日々暮らしている市民は、社会のどこを見ているとそういった萌芽や可能性を見つけられますか?

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中石 日本でも、アパレルや一般消費材メーカーで、自社の製品ついて「持続可能性に貢献する商品ですよ」と言うことを、一つの付加価値として打ち出し始めています。その時にキーワードとして、「サーキュラーエコノミー」というキーワードが使われ出しています。
 まずはそこに気づく人がいるか。そういった商品には「これはサーキュラーエコノミーの実現をコンセプトにしています」とか、パッケージを循環型にすることで「サーキュラーエコノミーに貢献します」といったことが書いてあります。でも気づいても、それをリサイクルと勘違いしたり、時にメーカー側もそれくらいの理解でしかないことがあります。
 認知が増していることは確かで、それはもちろんいいことです。ですから、「正しいサーキュラーエコノミーの概念を知っていただくために、どう発信するか」。そこがポイントになってきます。
 Sustainable JapanIDEAS FOR GOODといったサステナビリティのメディアは、ちゃんとしたサーキュラーエコノミーの概念の発信をしてくれています。では「一般の方々が、そういったメディアを見ているか?」。もちろん素晴らしい発信ではあるんだけど、「まだまだ足りないんだろうな」ということは考えています。
 もともと僕たちはライフスタイル提案からスタートしました。銀座LOFTの一角で売り場をプロデュースをしたり、ギフトショーという展示会のゾーンプロデュースによりサーキュラーエコノミーのコンセプトの製品をバイヤーさん、消費者の皆さんに発信しながら、正しい理解を伝えていくことはコツコツと続けています。今後も、企業と一緒にこの価値観を感じられる商品をつくって、それを誰もが手に取れる状態をつくっていくしかないと思っています。
ーこの価値観を世界で牽引する本部はどこにあるんでしょう?

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サーキュラーエコノミーのコンセプトの元になる「デカップリング」。ヒューマン・ウェルビーイング&経済成長と、資源使用、環境負荷を切り離す

中石 今一番リーダーシップをとってやっているのはエレンマッカーサー財団と、あとはEU欧州連合と、グローバル有力企業です。
 世界では、サーキュラーエコノミーへの移行が一気に加速していますが、日本ではまだまだこれからです。
 日本にも素晴らしい持続可能性文化があるのに、それを戦後の高度成長で捨ててしまったという流れもあります。でも、だからといって江戸時代に「環境を守る」とか「自然への配慮」という意識があったわけでもなく、純粋に「もったいないから循環させよう」という姿勢だったわけです。
 数ある日本の伝統工芸や美的感覚の中で、特に欧米の人たちが見て素晴らしさを感じるのは「金継ぎ」です。あの「補修をすることでその商品の価値を高める」という行為こそ、日本の宝だと思います。日本人の根底に流れているああいった伝統的な美的感覚は、サーキュラーエコノミーを考える上でもすごく役立つはずです。
 だからこそ、「循環させること=サーキュラーエコノミー」のブランディングをしっかりしないといけないと思っています。今の日本の消費者の方々は、再生材を使用することを嫌って「新しい素材のものがいい」という意見が大半とのこと。それも、企業が循環型に移行できない大きな要因になっています。
ー消費者の根底からの意識向上が必要である。

9.39.01

中石 そこで押し付けがましく、「考え方を変えて」と言っても無理です。ブランディングすることで、早く「リサイクルは格好いい」という風にする必要がある。だって現実に、例えばパタゴニアさんの取り組みが日本でも受けて、実際に売れているという事例もあるわけです。
 ということは、当然日本でもそれができると思っています。
【初回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
【第2回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
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中石 和良

松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画部業務に携わる。
その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)及び株式会社ビオロジックフィロソフィを設立。欧州ビオホテル協会との公式提携により、ホテル&サービス空間のサステナビリティ認証「BIO HOTEL」システム及び持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける。
2018年、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンを共同創設。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラー・エコノミー」の認知拡大と移行に努める。

 

ということで、「循環」は常に生活の中で意識していきましょう。次回木曜日の公開記事は、また新たなテーマで展開します

 

(取材:平井有太)
2020.6.12 fri.


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