2020.06.18 Thu.

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(TOP写真について)環境や社会を考慮し、投資パフォーマンスを向上させる投資戦略「ESG投資」で運用されている資産は、2018年には全体の1/3を占める。
環境・社会への影響を考慮すると利益が増すと考えるのが「ニュー資本主義」(出典:夫馬賢治 著『ESG思考』講談社+α新書 2020)と語る、中石和良さん

  コロナ禍前から、EUの壮大な戦略として打ち出されてきていたSDGsやパリ協定と、それを実現するシステムとしての「サーキュラーエコノミー=循環型経済」。
 世界を牛耳り、対抗するのが不可能ではないかというアメリカのGAFAや、それには中国ほどの規模でやっと対抗できるかというデジタル産業をも俯瞰し、統括できる価値観を考え抜いて出してくるEUの逞しさ。いい意味で「狡猾」とも呼べるその姿勢からは、私たちにも学べることが多くあるように感じます。
 徐々に見えてきた、コロナが私たちにとって警鐘であったと共に、未来に向けて必要な価値観を後押しし、実際にドライブさせてくれている機能。大きな犠牲をただ悲しむのではなく、せめてそこから学び、よりポジティブな未来に活かしていく知見がここにあります。
ー環境活動には、どうしても「清貧でなければ」といったイメージがつきまといます。
中石 それは払拭しないといけないですね。一番の目的は、地球に住む人間が豊かに、健康になることです。それは今の世代だけではなく、未来の世代もそうならないといけません。
 そして、その根源になるのが「自然資本」です。
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ウェル・ビーイング&経済成長から、資源使用と環境影響の2つを切り離す。もはや、環境負荷を与えない段階ではなく、再生することが必要

 今世界において、先進国は成長が止まり始めているにしても、途上国や後進国はこれからまだ成長していかないといけない。ということは、地球規模で見ると幸せになるための経済成長がまだ必ず必要となって、では「それを実現しながら、しかし地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)を超えない範囲でどうするか?」という考え方が「デカップリング(切り離し)」です。つまり、人々のウェル・ビーイングの向上と経済の成長、それと資源使用、環境影響を切り離すことが求められます。そうして、SDGsとパリ協定が目指すゴールを達成せねばなりません。
 これらを実現できる経済・産業システムこそが、サーキュラーエコノミーです。
 ですから、経済活動と産業活動は新しい雇用、産業を生み出して経済を成長させながら、人間の社会的地位を高める。
 問題は、格差をなくし、公正に働ける環境をつくり、成長もしながら資源を使うことをいかに切り離し、環境負荷をかけない活動(もはや、環境を再生する活動)を続けていけるのかということに帰結していくんです。
ーこの「サーキュラーエコノミー」に関するお話というのは、心の底から素晴らしいと思うのと同時に、とても壮大です。これは「個人の頑張りでやることじゃないな」とか、「自分がやるべきなのか?」という疑問はなかったんでしょうか?
中石 もう、「これしかない!」と思ったんです。
 日本が2000年からずっと取り組んできている「3R=循環型社会形成」の取り組みというのは、世界的にも先進的だったんですね。だけどそれでは廃棄物ありきで、ダウンサイクルが前提です。
 3Rとは「廃棄物をなるべく少なくしましょう」、汚染もなるべく少なく、そしてそれらを「できる限りリサイクルや、再生させましょう」という概念でした。
 ですがそれだと、ものをつくる動脈産業側と廃棄物を回す静脈産業側というのは、基本的に分離してしまいます。つまり、その流れでサーキュラーエコノミーを日本の産業側が考えてしまうと、「欧米で進んでいるそれとの乖離が進む」ということになってしまう。僕には、それが一番の心配でした。
 当時2018年頃、環境省の方々との会話でも、そこまで理解できていない方がいらっしゃいました。当然、企業の方々もそうでした。それで、「なんとかしなければいけない」と思いながら、かたやヨーロッパでサーキュラーエコノミーはどんどん進化していました。
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 もともとサーキュラーエコノミーは、いわゆる「資源効率」でした。「資源をどう効率的に使いながら経済と新たな雇用を生み出すか」というところからスタートし、それがどんどん進化した。
 これは僕がいつも話すことですが、サーキュラーエコノミーが社会性の問題、経済の繁栄、そして「持続可能な社会経済全体を生み出す仕組みである」という風になったのは、進化の末の結果なんです。
ーオーストリアやドイツからその価値観が始まったというのは時代的、または政治的な背景、そして社会構造的な理由があったんでしょうか?
中石 むしろその2国よりも、それは「欧州全体」という風に捉えた方がいいと思います。逆に言うとドイツはむしろ、ある意味で日本のようなポジションでした。
ー石炭が大量に採れることもあって、火力発電を産業の中枢に置いている国だった。
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サーキュラーエコノミーは3つの原則に基づき行動します。
「廃棄や汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う」、「製品や原料を価値を保ったまま使い続ける」、「自然システムを再生する」。
この原則を実現する主要な手段が「サーキュラーシティ(循環)」です

中石 それから、早くから日本と同じように「3R」という取り組みをやってきて、そのせいもあってドイツは若干ヨーロッパにおいて、理解が遅れていたケースがあったようです。
 EUについてグローバルな経済を基軸に考えると、停滞、衰退している大陸と言えるかと思います。一方で中国を中心とするアジアでの工業や工場、アメリカではGAFAMに代表される情報産業プラットフォーム、また、それらに拮抗しうるBATH(アリババやバイドゥetc.)といった新たなデジタル産業にしても、中国から出てきています。
 ですから「世界の主要産業はアメリカと中国にある」と言える中、「ヨーロッパはどうしたらいいのか?」と。そこで彼らが考えたことが、「サステナビリティ=持続可能性(倫理)」と「法・規制」です。「その方向でアドバンテージをとる」という選択肢を突き進め、アメリカ、中国の2強に対抗できる国際的競争力をつける。それを「ヨーロッパとして、新しい経済成長を生み出す糧にしよう」という戦略を描いているのだと思います。
 そのような戦略と、もう一方ではヨーロッパの人たちにはもともと利他的な発想や、将来世代に向けて「環境をどう保護するか」という考え方、寄付文化などがあります。そういった文化をベースに、「新しい経済戦略としての環境再生や持続可能性」というところに、思考を一気にシフトさせたんです。
 「SDGs」や「パリ協定」はその賜物と言えるかもしれません。
 そのリーダーシップを、欧州は総力戦でとってきています。そこから彼らはそのための枠組みをつくり、それを経済に落とし込むためにサーキュラーエコノミーという概念を当てはめ、アメリカと中国という2大産業強国に対抗していこうという、壮大なビジョンを構築しているのではないかと思っています。
ーいかに埋没せず、どう価値観を浸透させ、自分たちの在り方を変えることなく、むしろイニシアティブをとっていくか考えた末の戦略、哲学を得意とし、「人間の幸せとは何か」ということを考えてきた彼らならではの価値観、姿勢を感じます。
中石 そういった文化がベースにある上で、「そもそも自分たちが持っている文化をどう活用するか」。自然環境を再生し、社会を護りながら経済成長させ、競争力をどうつけるかという戦略を立ててきたのは素晴らしいと思います。それも2050年とか、30年間という長期スパンでビジョンを描き、実際にそのビジョンに向けて着々とロードマップを進めてきています。
 その途中に起きたのが、今回のパンデミックでした。
 ご存知の通り、新型ウイルスによるヨーロッパ経済の寸断というのは凄まじいものでした。しかし、それでもそのロードマップに関してはほぼ変更ありません。彼らにしてみれば、むしろ余計に「ここしかない」という感覚なのです。
 深化・強化され、さらに、彼らにとってこの持続可能性や環境配慮の取り組みは上位概念として位置づけされています。ある意味で原理的な発想でもあるので、そこに対して反対する人がいない、むしろ反対することで逆に攻撃されるくらいです。
 実際にこれは、アメリカや中国のデジタル・工業産業に対する上位概念の位置づけが成り立つわけです。その枠組みの中で、すべてを統括できるんです。
ーSDGsやパリ協定が、これだけ群雄割拠なグローバル経済の中で、自分たちの産業を成長させるために考え抜かれた戦略と捉えると、今までとは違う側面が見えてきます。
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中石 ですから日本企業や中央省庁の中でも、「これは欧州連合の戦略であって、一歩距離を置いた方がいい」という見方をする方も実際にいます。しかしそれでは結局、日本は本当に取り残されてしまう。やるべきことは、しっかり欧州の戦略に寄り添いながら、日本独自のポジションをつくっていくことです。
ー循環型の社会や地産地消、または過度に消費しない「足るを知る」といった価値観は、日本にもともとあったものです。私たちは足元にある価値に、気づくべきではないでしょうか?
中石 第二次世界大戦以降の高度成長期の中で、大量生産、大量消費、大量廃棄という、「その流れで経済成長を実現する」方向に国全体がいってしまいました。それ以前の社会の仕組みに戻れないし、忘れてしまっているのが実情と思います。
 この高度成長を担ってきた方々の思考が未だに切り替えられていません。これは実際に、中央省庁の中枢のある方と直接、サーキュラーエコノミーについてお話したことがあります。その時は、「循環型経済にしたら経済が停滞する。GDP下がるでしょう?」という言い方をされました。「消費せずに廃棄しないで循環させたら、経済は停滞するよ」という、それが大体に代表される考え方だと思います。けれども一方で、「これはSDGsに貢献する経済システムなんです」という言い方をすると、「それには興味がある」ということもあります。
 ですので、サーキュラーエコノミーはデカップリング、SDGs、そしてパリ協定に設定されたゴールを達成するための方法論、そして経済システムであるという整理をすると、すごくわかりやすいのだと思います。
ー考え尽くされた上での壮大なサーキュラーエコノミーですが、目の前の私たちの生活でテコ入れができることは、どのようなことでしょう?
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再生可能資源か枯渇資源かによって循環の方法が異なる。「生物的サイクル」では最終的には土壌の栄養素となり新たな生物を再生する。
「技術的サイクル」は、経済活動の中でずっと循環させる。2つの資源が複合すると循環が難しくなる

中石 サーキュラーエコノミーのベースは、再生可能エネルギーです。エネルギーは基本的に、再生可能な資源をリソースとするものを使うことが大前提にあります。そしてその上で、経済活動をどう行っていくかを考えなければなりません。
 最初にグローバルの大きなトレンドとして出てきたのは、プラスチック問題でした。プラスチックの海洋汚染を発端に、「使い捨てプラスチックの課題を解決する」というのは、サーキュラーエコノミーの枠組みから最初に出てきた、大きな取り組みでした。
 その次に出てきたのは、アパレル産業です。資源を採ってきて、大量の水を消費し、化学物質をたくさん使い、製品があまり使われずに廃棄されていくという業態が、国連の指標でも「エネルギー産業の次に環境負荷を与えている」という評価となり、大きく問題視されました。
 エネルギーとプラスチック問題に関しては日本でも、それなりに動きが出てきていると思います。ここまでは割と中央政府のリーダーシップも見え、方向性が出てきつつあります。アパレルに関してはやっと動き出しつつあり、それこそ、これからだと思います。
 その後にトレンドとして出てきているのは「都市」、「街」です。それこそはサーキュラーエコノミーで、「都市のあらゆる機能全部を循環型に変えていこう」ということが打ち出されてきています。都市では世界中で、地球上の大半の資源が消費され、CO2を排出されている現場です。
 だから今、「都市をサーキュラーエコノミーで運営する」という発想が今大きくなりつつあるんです。
【初回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
【最終回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
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中石 和良

松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画部業務に携わる。
その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)及び株式会社ビオロジックフィロソフィを設立。欧州ビオホテル協会との公式提携により、ホテル&サービス空間のサステナビリティ認証「BIO HOTEL」システム及び持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける。
2018年、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンを共同創設。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラー・エコノミー」の認知拡大と移行に努める。

 

壮大なサーキュラーエコノミーは、そもそもはEUの戦略から生まれてきたという事実。
そしてそこにある発想は、私たちにも身近な価値観から生まれてきています。最終回は来週月曜日の公開、お楽しみに

 

(取材:平井有太)
2020.6.12 fri.


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