2020.06.15 Mon.

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  コロナ禍以前から、気候危機に代表される地球の置かれた状況に対して、近い未来を構築する価値観を語るキーワードはたくさんあった。その時、それこそ「再生可能エネルギー」という言葉だって時に説明を求められるし、農作物の話ではすぐピンとくる「地産地消」だって、なぜそれがエネルギーの世界でも有効かは、まだまだ誰でもがすぐ腑に落ちる話ではない。
 そこにさらに、新型ウイルスの猛威が被さってきた。ENECTがコロナ以降集めてきた言葉たちにおいても「サステナビリティ=持続可能性」、「ESG投資」、「SDGs」、「ネイチャーベースドソリューションズ」、「グリーンリカバリー」etc.、いくつもの言葉がすぐ頭に浮かぶ。その一つ一つに重要な意味や誕生の背景があるのは当然として、その上で、それらすべてを包括できる一言があるとしたらどうだろう。
 今回は、「『サーキュラーエコノミー』がそれではないか?」という半ば確信があって、ZOOM経由で、第一人者である中石和良さんにお話を伺った。
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CIRCULAR ECONONY JAPANでは、このステップでサーキュラーエコノミーへの移行支援を行っている

中石 コロナが起きる前、世界的な共通課題として気候変動のことがあり、それによる影響を「どう緩和するか」ということが最大の盛り上がりを見せていました。それが最高潮に達したあたりでコロナのパンデミックが起き、経済が停滞して、今は経済回復、景気対策ということがスタートし始めています。
 それらをこのタイミングで、まさに「気候変動対策や、持続可能な社会のためのお金の使い方に変えていかないといけない」ということになったわけです。つまりこれをきっかけに、世界は新たな潮流を生み出そうとしています。
 そして機関投資家は、コロナ前のスタンスを変えることなく「ESG投資をさらに強化していこう」と言っています。また、グローバル有力企業及びヨーロッパのEU欧州連合や各国政府も、その流れを強化する流れになってきています。
 そういった中でサーキュラーエコノミーのポジションが、改めて見直されてきています。
ーそれは予想されていた流れなんでしょうか?もちろんコロナのことは多くの方にとって予想外の大騒動で、しかしそれによって流れが一気に早送りされたような感覚はおありですか。
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中石 識者の皆さんは、感染症のパンデミック自体は「いつ起きても不思議じゃない」と考えてこられていたということを仰います。その要因が生物多様性だったり土地利用の変化、そして気候変動ということで、感染症が起きやすくなっている状況については、警鐘が鳴らされてきていました。
 そして一方には、それを緩和するためにも「持続可能な社会づくりをしよう」、「サーキュラーエコノミーをやらないといけないよね」ということを考えている方々がいて、実際にその準備もされていました。ただ今回はそれが、予想以上の規模感で起こったということです。
 ここで懸念したのは、経済が一気にストップして停滞が長期になるという時に、果たして将来の繁栄を見越した、次の世代にも繋がるような経済復興に、「みんなが気持ちを切り替えられるんだろうか?」ということでした。逆に言うと、当面は「無差別な景気対策に走ってしまうんじゃないか?」と、パンデミックの初期の頃に思っていました。
 ところがその意に反して、特に欧州の官民は声を出し始めて、それがアメリカにも飛び火しました。日本と中国がどうなのかということはありますが、世界中の企業、議員たちから、NGOやNPOは当然として、そういった声が一気に出てきたのです。皆が「パンデミック後の経済復興は『持続可能性』をフレームワークにしたものでないといけない」ということを言い出し始めて、かたや機関投資家たちは従来の流れに則って、「ESG投資をさらに強化しよう」という動きを押し出してきました。
 ただ中国の動きがちょっと見えないということで、そこはまだ不明な部分です。
ー日本の場合の宣言解除は経済界の声に押されてという傾向が見てとれますし、政治トップの立場からESG投資や持続可能性に言及するような言葉は、聞こえてきません。
中石 日本の企業も、ESG経営に力を入れ始めてきてはいました。しかし今回コロナのことが起きてわかったのは、実は表面上だけでやっていた企業がたくさんいたということです。逆にこれを機に、元のかたちの事業運営に戻るんじゃないかというところも出てきているので、そういう意味で日本の、世界における今後の産業ポジションというのは危ういなと思っています。
 一方で、環境省はなんとかしようとしています。
 ちょうど昨日(2020年6月11日)、日本ーEU戦略パートナーシップ協力実施支援ファシリティにおいて、「グリーンリカバリーを一緒にやっていきましょう」というセミナーがありました。そこで小泉大臣からは、「日本もその路線で行く」ということで、3つの移行が提示されました。
 それらはコロナ以降の経済復興において、まず一つは「脱炭素社会への移行」。2つ目は「循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行」。そして3つ目は、「分散社会への移行」という宣言でした。
ー言葉だけを聞いている分には、とても素晴らしい気がします。
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中石 だけど、これは「他の省庁との連携がとれた宣言なのか?」という疑問はあります。そして、「これで日本の政策がそっちに行くのか?」というと、3つの移行には具体的なロードマップや制度は何も示されていないので、少し疑問が残るが、期待したいと思います。
ー環境省が権限が、省庁の中では小さいことはわかります。しかし最近は、国外の状況を知る外務省が「このままでは日本の将来がマズい」と気づいて、環境省のサポートを始めたという話も聞きます。
中石 一番の課題は、循環経済(サーキュラーエコノミー)の推進に対して、経産省と環境省が平行して、それぞれにやっているように見えるということです。なぜここでこそがっちり連携しないのか、心配です。
 例えばフランスの政府も、もともとはすごく縦割りが顕著な省庁構造だったということが知られています。横の連携がまったくない省庁体系だったのが、それこそ2018年に出してきたサーキュラーロードマップをつくる時に初めて、経済系と環境系の省庁が連携したという経緯がありました。その時は、みんな「あの、フランスが」という風に言っていました。
 それから、日本の企業人にはまだまだサーキュラーエコノミーに対する勘違いが多くあります。徐々に理解が深まってきているとはいえ、まだ「サーキュラーエコノミーってリサイクルでしょう?」という人たちがたくさんいるのが現状です。ですから、そこから変えていかないといけません。
 日本は2000年に公布された「循環型社会形成推進基本法」から、3R(Reuse、Reduce、Recycle)を一生懸命進めてきました。多くの人が、これをその流れと同じように捉えていて、どうしても「廃棄物をどうするか?」という概念で考えてしまうという課題があります。
ーそもそも中石さんとサーキュラーエコノミーとの出会いは、どのようなものでしたか?
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「持続可能な生産と消費」を生産側・消費側に同時アプローチするビジネスモデル

中石 僕はずっと企業でサラリーマンをしてきて、サステナビリティに関する取り組みを始めたのは2013年の独立後です。最初にやったのは「BIO HOTEL(ビオホテル)」というプロジェクトで、それはオーストリアとドイツから始まったホテルのサステナビリティ価値観です。まず最初は「ビオホテル・ブランドで持続可能なライフスタイルの提案」を消費者や生活者向けに始めました。
 でも、ホテルというサービス空間の体験や商品を、生活者の人たちに発信して使ってもらって「ライフスタイルを変えましょう」という時に、日本にはあまりにもそのための製品やサービスがないんです。あっても値段が高かったり、味が美味しくなかったり、アパレルだとデザインがいかにもなものしかなく、選択肢がない。
 その経験から、つくる側にアプローチして、そういう製品やサービスを生み出していく方に先に働きかけないと、「ライフスタイルばかり提案していても進まないな」と思いました。
 毎年ヨーロッパに行って現地のビオホテル協会の人たちと話す中で、EUのサステナビリティにまつわる最新情報は入手していました。特に2015年のSDGs、パリ協定、その後の「EUサーキュラーエコノミー・パッケージ」という、そういった情報を吸収しながら「これは日本、マズいな」という想いを深めていきました。
 ではそこから、持続可能な生産側にアプローチする。そしてどうアプローチするかというと、SDGsやパリ協定はとても概念的で、ゴールは示されたけれどどうやって達成するかという方法論はないんです。
ーそれもある意味で、とても国連ぽいというか(笑)。
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中石 言っていることは素晴らしいけれども、どうやってそれを実現するか、その制度もない。じゃあ、そのやり方を具体化するとしたら、それは「やっぱりサーキュラーエコノミーなんだよね」と考えて、それを日本の経済・産業の中で広げていこうと、本格的に動き始めたのが2017年頃でした。
ーもともとのサラリーマンだった頃から、そういった趣向がおありだったんですか?
中石 もともとはパナソニックとか富士通、あとはQBハウスの経営企画をやっていましたので、サステナビリティの領域はあまり関係ありませんでした。でもQBハウスは水を使わないし、シャンプーや薬剤等の有害物質排水がない、すごくエコなサービスです。ですからその部分を情緒的に訴える、「新しい業態をつくりましょう」ということはやりました。
 その流れがあって、ビオホテルを通じたライフスタイル提案の前に「まず、つくる側だ」ということで産業界、あとは政策決定者の方にアプローチしないといけない。そこでサーキュラーエコノミーにまで辿り着いたんです。
ー現場からだんだんと核心に迫ってきて、今のお立場にいる。
中石 サーキュラーエコノミーというものは、今世界が目指すべきゴールとしての2030年アジェンダ(SDGs)、パリ協定、気候変動etc.を達成する方法論であり、他のオルタナティブはありません。今はサーキュラーエコノミーへの移行以外に、その方法はないんです。
 だから今世界中が、ヨーロッパを中心に政府、自治体、企業そして市民が動き出しているという状況があります。
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デカップリング:「人間の幸せ向上&経済成長」から「資源使用」と「環境負荷」の2つの影響を切り離す

 そこで、まず一番大事な概念を「デカップリング」といいます。このデカップリングは2011年、国連環境計画と国際資源パネルが出してきた概念です。デカップリングとはつまり、「切り離す」ということです。
 ここに大きく関わってくる、「『WELL BEING(ウェル・ビーイング)』をどう日本語に訳すか」というのはすごく難しい問題ですが(笑)、何にせよウェル・ビーイングと経済成長はこれからも高めていかないといけない。そしてそこで、「それらと資源の使用は切り離しましょう」というのが、まず一つのポイントです。それは「経済は成長させながら、どう資源の使用量を減らしていくか」ということです。
 そしてもう一つは、「経済成長しながら、環境への負荷をどう減らすか」。その時に、この「デカップリング」という概念が最も重要になっていきます。「それを実現させるためにどうするか?」というのが、サーキュラーエコノミーの最初のスタートなんです。
【第2回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
【最終回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
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中石 和良

松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画部業務に携わる。
その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)及び株式会社ビオロジックフィロソフィを設立。欧州ビオホテル協会との公式提携により、ホテル&サービス空間のサステナビリティ認証「BIO HOTEL」システム及び持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける。
2018年、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンを共同創設。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラー・エコノミー」の認知拡大と移行に努める。

 

少しずつ見えてきた、すぐ近未来で機能するサーキュラーエコノミーの全貌。全3回の第2回は木曜の更新、お楽しみに!

 

(取材:平井有太)
2020.6.12 fri.


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