2017.08.04 Fri.

setagayakucho

高遠さくら発電所がある場所はその名のとおり、山奥にある桜の名所でもある

  「電力の産直」というアイディアは、生活協同組合の成り立ちから着想を得たという保坂展人・世田谷区長インタビューの第2回。
 2011年の東北の大震災、それに続く福島の原発事故を体験した市民の中には、実は再生可能エネルギーを望む声が多いことに気づいた区長は、どのように考えを広め、仲間を増やし、また、それらを実現させてきたのか。
 長野県と世田谷区の連携は、他に類を見ないサイズの、かつ前例のない事例。
 しかも扱うのは目に見えず、匂いもないエネルギーであり、さらには日本では誰も体験がない「電力の自由化」を周知させるための知恵と実践が詰まったお話です。
 
ー広範囲に電力の取り組みを広げるため、必要な要素は何でしょう?
保坂 一つはっきりしているのは、今も「市民電力」という大きな流れがあります。それは出資型というか、とにかく「自分たちでやる」というかたちです。ただ同時に、それとは多少違う、「事業として成功させよう」という姿勢も大切になってくる側面もあります。
 これは僕の考えでもあるんですが、「エネルギーシフト」という時に重要なのは、具体的な電力、電源については需要と供給も含めて「一本に繋げていかなければいけない」ということがあります。それは全体として一つの事業であって、これまでいろいろな分野・産業の人たちが「新電力研究会」みたいなものに来て、非常に熱を帯びていた時期もありました。そういった「力」が相当に注ぎ込まれないと、「電力の在り方は変わっていかないだろう」ということを考えていました。
 何よりも基本の姿勢として、「どんな方からも、どんな事業の話も聞きます」というスタンスは変えていません。今も、電力事業のプレゼン資料は多数ありますし、あまねく内容をお示ししながら、企業提案にはいろいろな事業者に手を上げてもらっています。
ーそういった流れが、長野県との自治体間連携にも繋がっていく。
保坂 まず、長野県でつくった水力発電の電気を、中部電力と東京電力の壁を超えて「世田谷区で使おう」という話が持ち上がりました。企画を公募にかけ、新電力としての実績に優れた丸紅新電力と、「顔が見える電力」を手がけ、優れた企画実現力を持つ世田谷地元の電力ベンチャーであるみんな電力がタッグを組んで、実現に至りました。この連携も、区としての工夫の一つでした。
 電力は昨年の4月に自由化されて、全体として東京ガスや石油会社などが一斉に参入したわけです。しかしその中で、具体的に「再エネ由来」を打ち出して事業化することができている会社は、まだ決して多くはありません。
 世田谷区は自治体として、今も「再生可能エネルギーの比率をあげていこう」という目標を、25%という数字で掲げています。ですから、長野県との連携において具体的にそのツール、システムを提案して実行できたというところは、実は驚いている面もありますよね。お互いに使用ヘルツも違ったり、いくつか関門もあったわけですから。

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ー県と区の、画期的で大きなプロジェクトです。
保坂 もっともっと、例えば福島県や他のいろいろな被災地でも自然資源をつかった発電所が稼動して、そこで「再エネの比率を増やしていこうよ」と打ち出したり、「温暖化防止の政策目標実現もあります」となっていけばと期待しています。
 ただ日本の社会って、実例がないと変わらないんです。だからPPSも世田谷区で一応やって、あの時は区内でさえ「これって合法なんですか?」、「停電はないんですか?」という心配の声がありました。でもそれだって最終的に、経済産業省から怒られるどころか、反対に感謝されるわけで。
 そういうことはやっぱり、やってみないとわかりません。
 長野県との連携はPPSの時と比べるとそこまでではないかもしれないけれど、とはいえ多少なりとも報道されて、「それなりのインパクトがあるかな」と思っています。区の大口契約でのPPSの導入はその2012年以降一気にシェアを伸ばしていきました。導入した競争入札も発想はどちらかといえば、「『消費者代表の自治体宣言』みたいなものですよ」と。そうして、それが「可能なんだ」、しかも「売れるよ」ということをわかってもらえました。
 つまり、長野県と世田谷区を繋いだ今回の事例からわかることは、発電をする側にしてみたら、実際に「思ったより高い値段で売却できる」ということなんです。しかも電気を需給される側も「再エネだから、高くなるんだろう」と思っていたら、むしろ「え、安くなったの?」という。
 そこが非常に、画期的なわけです。
ー実は誰にも想像できていなかった、関係者全員にとってウィンウィンの着地点であると。
保坂 「再エネ比率が25%だから、これまでより一千万円高い電力でお願いします」と提案したとしても環境価値からは、今の時代背景的には通るかもしれません。でも、異論や意見言う人も出てくるでしょう?逆に、そこで実際に今回の取組みで「電力料金がいくらか下がります」と聞いた時、「けしからん」という人はいないんです。
ーここまで、最も大きな苦労というのはどんな部分でしたか?
保坂 「苦労」というのは、実際にしているのは職員だから(笑)。私は、どちらかといえば打ち上げ花火をあげて、理念を語っているだけなので。
 ただ、「しつこくやること」は大事じゃないですか?
 世田谷区には「せたがやふるさと区民まつり」で、全国から10を超える自治体の首長が集まります。毎回交流会で意見交換をした後で、最近は呑み会までやってるけど、そこでも電力に関する区からの発表を通じて、他の自治体の人は驚くわけです。

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群馬県利根郡川場村の森林(もり)の発電所は、地元の森林組合から供給される木質チップを使用。地域の山の間伐もバランスよくすすみ、CO2排出量の抑止と合わせ、一石二鳥の取り組み

 群馬県川場村のバイオマス発電所の例もあり、そこでできた電力を「世田谷区民が40軒、実際に契約して使っています」となると、「そんなことができるんだ」となる。さらには、長野県との取り組みは規模も大きく、そこでも「ヘルツの違いも超えてやっています」と。
 そういう勉強会を、もうしつこく6年間も続けてきています。しかも「年に一回じゃ足りない」ということで、今度また8月に自治体間での自然エネルギー、実務レベルでのネットワーク会議をやります。
 さらには勉強に環境省や経済産業省も来たりする。つまりこの世田谷区の動きというものが、一自治体の動きというよりも、新たな時代にふさわしいように「システム変更をクリアしているよ」というモデルケースになっています。しかも、その技術的、実務的な事業内容を提供できるということで、貢献は大きいと思うんですね。

 

次回へ続く

 

(取材:平井有太)
2017.06.27 tue.


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