2017.12.17 Sun.

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2015年に採択されたパリ協定には全196ヵ国が参加し、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2℃」未満に抑え、最終的には「1.5℃」未満を目指す

  11月29日「CDP|2℃に向けて動き出す 企業・投資家セミナー」を盛会に終えた翌日、ロンドンから来日中のCDPのCEO、過密スケジュールをこなすポール・シンプソン氏にインタビューを許された、40分。
 日本はなぜこんなにも、世界の再生可能エネルギーの流れから遅れてしまったのか。中国が世界の先端を走っているすぐ隣で、今さら火力発電とはどういうことなのか。
 このままでは将来的に、大きな経済的打撃を負ってしまわないか心配もされながら、しかし同時に日本が持つ可能性について、何より私たち市民が担う大きな役割について余すことなく話していただいた。
 日本からは見えない、世界を再エネに転換させている立場からこその、社会を席巻しつつある新しいエネルギーのかたち。
 この記事が、日本が目を覚まし、まず追いつく一助となればと願いつつ。

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セミナー会場は渋谷・国連大学の国際会議場。会場は満員で、4時間に渡る専門的な内容にも、途中退席者はほぼいなかった

ーセミナーの印象はいかがでしたか?
ポール・シンプソン(以下、PS) 成功だと思います。多くの関心が寄せられ、たくさんの投資家、企業からの注目が増している手応えがあります。リーダーシップを発揮する組織もあり、40の企業がすでにSBTにサインし、現在3つの企業がRE100に参加しています。もちろん私たちが考える理想よりはまだ小規模ですが、いい勢いがついてきたと言えるかと思います。

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環境省によるSBT支援事業の参加企業数は63社にまで増加した。当初は30社程度を予定していたが、急遽枠を拡大したそうだ

ーセミナーで確信しましたが理念的、科学的、そして経済的に再生可能エネルギー(以下、再エネ)はすでに世界の主流と言えるかと思います。日本が大幅に遅れているのは、なぜでしょう?
PS それは私の個人的な懸念でもあります。日本は間違いなく、現時点において再エネを牽引する立場にありません。それどころか、石炭火力に改めて力を入れています。
 これは混乱する状況です。日本のテクノロジーは世界でも先進的であることで知られているのに、「太陽光は日本では価格が高いんです」と聞きます。今世界でソーラーパネルの価格は飛躍的に安くなっており、国としてやる気であれば、助成金などでいくらでも加速させることができます。
ーやる気さえあれば、すぐ安くなる。
PS 洋上風力に関しては、もうちょっと複雑な事情もあることはわかります。海洋では深さなどが関係してくるため、もう少し技術的イノベーションが必要になります。
 つまりは、「再エネへの投資がまだまだ足りていない」ということです。とはいえ、ここにきて政府やGPIFも、ESG投資に対して真剣に取り組む姿勢が見えてきました。それが結果的に、日本社会における投資を促進させることを望みます。
 昨日私たちは、ゲストスピーカーとして日本生命保険相互会社に来ていただきました。ご存知のように、彼らは保険会社であると同時に、資産管理マネージャーでもあるわけです。そしてすでに世界各地のグリーン証書、気候証書に投資をしてきて、「国内よりも海外の方がずっと投資しやすい」と言っています。しかしやっと日本国内にも環境が整いつつあり、例えば東京都はすでに賛同してくれている組織の一つです。多様なグリーン証書が、増えつつあります。
 どの国であろうと、いつかはスタートを切らねばなりません。日本はこのタイミングで、今後少し頑張って、追いつく必要があるということです。

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              セッション「2℃に向けて企業、投資家は何をすべきか」で、シンプソン氏の隣が日本生命執行役員の大関氏

ー今回実際に来日して知った、驚くべき事実はありましたか?
PS 私たちは再生可能エネルギーに関するすべてを推進させる組織です。あらゆる企業に、再エネの拡充を目指していただきたい。そのためには、再エネ100%な社会に向けて牽引する存在が必要です。また、それが現状は多くの企業にとって、ある意味での「飛躍」であることも理解しています。
 日本の企業の多くはまだ、警戒しているように見受けます。特に再エネに対する警戒の多くは本来不必要なものですが、それがまだ根強く存在していることには驚かされました。
 ただ同時に、すでに40もの企業がSBTに賛同してくれています。これは歓迎すべき事実です。私が前回来日した2年前、SBTへの参加企業は0でした。それが2年間で40になったということは、素晴らしい進歩です。また、お話するどの企業も、将来的な高い再エネ比率を目標を掲げ、それを達成しようという意欲について語られます。
 企業は正しいことをやりたい存在です。パリ協定を遂行したいと思っています。その強い意志を感じとれました。
ーCDPにとって「DISCLOSURE(開示)」は核心です。日本にとって得意でないことにも思えますが、その観点からいかがですか?
PS 持続可能な経済にとって、情報開示は大前提です。もし確かなデータ、数値、それらの透明性がなければ、パリ協定を達成できているのか、持続可能な発展ができているのか、知りようがありません。
 私たちの過去10年の活動から、企業の情報開示は大きく進んだと思います。働きかけてきた約500の企業のうち、270から返答を得ています。これは65%、半数を上回る反響で、悪い数字ではありません。現時点では、未来のスタンダードを構築する道半ばにいると言えます。
 しかしもちろん改善点はあります。まだ230の企業が残されているわけです。日本政府とその件についても話していますが、まだ開示の準備ができていなかったり、情報開示の要求をマネージするノウハウがないようです。
 ここで、投資家の力が必要です。情報開示ができていない企業に対して働きかけ、それが当たり前となるようプレッシャーをかけ、促して欲しいのです。
ー私たち「みんな電力」は、一般市民の「選択」を重要視しているエネルギー会社です。投資家と一般市民の選択は、時に食い違うことはありませんか?

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PS まず、私自身も一般市民です。そして忘れてはならないのは、投資の大原則は、市民社会の利益を考えて行うということです。
 それぞれの機関投資家は、市民のために資金を運用しています。「受託者責任」という言葉がありますが、年金基金は枠組みの受益者、つまり人々にとって最も利益になるように投資を行わなくてはいけません。
 年金は、そのお金を機関投資家が投資しているのです。
 ただ、現代には新たなトレンドもあります。これはイギリス、そして欧州全体においても個人投資家による、クラウドファンディングが大きくなっています。
 ですから、私たちにもっと必要なのは個々の意識向上、気候変動やエネルギー問題への興味を喚起することです。今回私が耳にしたことは、日本の市民社会は、まだまだ気候変動への認識や知識が少ないのが一般的だということでした。
ー世界では、投資家と市民の要求が噛み合って、再エネの普及がうまくいった前例はあるんでしょうか?
PS イギリスの年金基金の例があります。大学の年金基金は、その投資先として「私たちにとって何が大切だろう?」ということを考えています。
 先進的な投資家たちは、年金を将来的に受けることになる市民にとって何が大切か、社会の未来のためにどこに投資すべきかを問いかけています。その動きは加速していますが、時に組織と個人での立場の違いが明るみに出ることもあります。
ー今日は、動きの遅い日本社会において、再エネを志向する市民が勇気づけられるようなことを聞けないかと思って来ました。
PS こう考えるのはいかがでしょう。
 生活において私たちが何かを買う時、それは実は「投票」をしています。例えばビールを買う時、私たちは世界に向かって「新たにビールを生産して欲しい」と伝えているわけです。つまり円、ポンドを使う時、私たちは「投票」しているんです。
 その行為は、もしかすると選挙におけるように投票よりも、、もちろん私は民主主義を信じていますし、政治的な投票は重要ですが、生活における購買活動の影響力はとても大きいのです。
 私は母国で過去16年間、100%再生可能エネルギーを供給する会社の電力を使っています。自宅で使うあらゆる電力は、再生可能エネルギーで賄われています。ですから私は再エネを応援していますし、投票を続けていますし、投資をしているわけです。
 世界経済において日本は大国です。世界で3番目に大きな経済圏であり、日本人は平均的に裕福であると言えるでしょう。そのような国で、子どもたちに受け継いでもらいたい社会の未来に何を望み、どのような投票をすべきなのか。
 今地球環境に必要とされているのは、再エネを購入し、再エネに投資をすることです。
ー今がまさに転換期である。
PS 16年前に電力を切り替えた当時、再エネ価格は今よりも6%高かった。それが今ひと月の電気代は、2人の子どもを育てる家族として、500ポンド以下におさまっています。つまり安くなった分だけ、私はバーでビールが呑めるようになったわけです。
 逆に、たくさんのものが高くなりました。
 例えば車です。人々はとにかく価格重視で安い車を買うのか、求める性能、品質のためなら、値段について文句は言わないものか。  実は「再生可能エネルギー」とは、そのような高品質商品なのです。
ー仰ることはよくわかります。イギリスでは再エネについて、最初から市民に理解されましたか?

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今年10月24日、ロンドンであった気候変動調査の発表イベントでのシンプソン氏

PS 「全市民が理解してくれている」とは、今も言えません(笑)。だからこそ私たちは環境意識の喚起に注力してきて、統計上は国民の9割が「気候変動を気にしていて」、「選択肢があるなら、より環境負荷の低い商品を購入する」と言っています。数字はずいぶん小さくなってしまいますが、国民の15〜20%は、「価格が高くても環境に優しい商品を購入する」との結果も出ています。私たちの戦略は成功していると言えます。
 オランダが電力市場を開放した時、直後に1割以上の人々が再エネに切り替えました。そのような状況のためには教育、意識喚起がとても大切で、それらが上手くいくと、社会が進む方向にも影響を与えられます。
 日本でも、教育は政府の管轄です。イギリスのように、公立校のカリキュラムに「気候変動」を加えなければなりません。そして企業にも、顧客を教育する大きな役割があるのです。
ー私たちの政府が気候変動を重要視しているとは思えません。
PS 私たちからも、より強く働きかけます(笑)。でも、政府の中にも意識のとても高い方はいらっしゃいますよね。
 人類とは、変化に対応できる生き物です。そして、変化のためには説得、情報、プレッシャーが必要です。
 世界の経済界には、変わらぬ化石燃料への興味があります。今までそこから利益を上げてきた業界や企業は、なるべくそのままビジネスを継続したいと考えています。そこに切り込むには、魅力的な経済的代替案を用意しなければなりません。気候問題に敏感な企業が、より大きな利益を生める構造の構築が必要です。その結果としてテスラのような企業が増えれば、それは私たちの勝利と言えます。
ー今仰られたアメリカのテスラ社について、もう少し聞かせてください。
PS 今、テスラは市場における破壊者です。同時にたくさんの分野で、世界を牽引しています。走行距離の最も長い電気自動車を開発し、そこにソーラーパネルと、バッテリーも加わりました。彼らは統合的かつ総合的な企業です。
 まだ小さな会社ではありますが、それでも市場を刺激する力を有し、評価額は高騰しています。テスラが創造的な破壊者として、今後どこまで大きくなれるのか、皆が注目してます。
ーインターネットの次に世界を根本から変えるイノベーションは、エネルギーでしょうか?

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PS 私はそう思います。そしてそれはもう実際に起きています。自動車産業を見れば、それは明らかです。
 2、3年前、ここまで電気自動車が世界に広まるとは誰も予想できていませんでした。インドでは2030年以降、イギリスとフランスでは2040年以降、ガソリンで走る車はなくなります。もう、世界のあらゆるメーカーは電気自動車を開発しなければなりません。フォルクスワーゲンは彼らのディーゼル車に問題があったため、380億ユーロをかけて開発方針を変えなければならなくなりました。
 TOYOTAはハイブリッド車、プリウスで世界を牽引しかけました。では、電気自動車の分野ではどのメーカーが世界に羽ばたくでしょうか?
 日産のリーフはすでに25万台以上が売れ、世界で最も売れている電気自動車となりました。ノルウェーの首都オスロでは、国の支援で、走行車の1/4以上がすでに電気自動車となっています。中国は2020年までに、「100万台の電気自動車を走らせる」と言っています。
 これは巨大な市場です。予言は困難ですが、どのメーカーが勝利し、誰が負けるのか。誰かがこの転換期を乗りこなして躍進し、勝者となるわけです。

 

後編に続く

 

(取材:平井有太)
2017.11.30 thu.
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ポール・シンプソン

CDPのCEO兼共同設立者。We Mean Business理事会、国際統合報告評議会(IIRC)委員、オックスフォード大学のスミス企業環境大学院のグローバル座礁資産諮問委員会役員など要職に就く。それ以前は、Chesham Amalgamations & Investments Ltd.、エコロジーと文化のための国際協会(ISEC)およびにソーシャルベンチャーネットワークでディレクターとして勤務。バース大学にて責任とビジネスプラクティス修士号取得


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