2017.12.04 Mon.

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高瀬さんはRICOH、積水ハウス、ゴールドマン・サックス、環境省が並んだRE100パネルセッションで、司会を務めた

  去る11月29日(水)、東京青山の国連大学・国際会議場にて「2℃に向けて動き出す企業・投資家セミナー」が開催された。4時間に及んだセミナーは国際的NGO「CDP」と環境省の共催。協賛にはみんな電力も、自然電力GREENaを運用するネクストエナジーといった、”再エネ系”と括って差し支えないであろう面々と名を連ねた。
 「2℃」とは、パリ協定の決定事項だ。気温の上昇を2℃に留め、最終的には1.5℃に収めようという指標であり、今すでに1.1℃上昇し、このまま行けば2.7℃になるということで、危機的状況は続いている。
 しかし、正直私たち日本人は、その状況にピンとこれているだろうか?
 世界は激動の最中にある。その牽引者がCDPであり、環境だけでなく、世界経済が大きくシフトする中取り残されかけている日本は、危惧されている。
 ENECTは2017年を、日本でCDPを担当する高瀬香絵さん、そしてセミナーに合わせ本国イギリスから来日したCEOポール・シンプソン氏のインタビューで締めくくる。
ー高瀬さんは「RE100」日本の責任者という理解で間違いありませんか?
高瀬 RE100は「ザ・クライメート・グループ」というロンドンにあるNGOと、私が所属するCDPのロンドン本部がやっているイニシアティブです。役割としては、クライメート・グループは広報や全体のとりまとめ、CDPの方はもうちょっと分析的なところを担当している感じです。

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RE100は、世界の名だたる企業が、自社を将来的に再生可能エネルギー100%で運営することを宣言するイニシアティブ

ークライメート・グループもCDPも、大きな組織なんでしょうか?
高瀬 そんなには大きくはないです。この間ロンドンのCDP本部に行ったついでにクライメート・グループも行ってきたんですが、大きいフロアに3、40人いたかいないか。CDPはもうちょっと多いです。
ー日本ではクライメート・グループ、CDPについて、まったく知られてないと思います。
高瀬 CDPが始まるきっかけというのは、例えば日本だとGPIFいう、皆さんの国民年金を集め、運用もしていく組織があります。ただ公的なお金なので、悪いことには使えないと。
 お金の運用には、「世の中を良くする方にお金を使いたい」という概念があって、それが発展して、例えば2000年代に「ESG投資」って聞いたことがありますか?
ー聞いたことはありますが、、
高瀬 「E」はEnvironment、「S」はSocial、「G」はGovernanceで、ESG。
 環境を意識し、人身売買はしないし、女性の雇用や多様性にも配慮した企業に投資をしようというのが始まって、国連でもそれを扱うようになり、投資家の方々も「私たちも始めます」と。
 でもそれが、世界では今や何千機関くらいの署名が集まっている流れがある中で、グローバルからはずいぶん遅れて、日本はやっと2015年にGPIFが署名をしました。
ー日本は環境に関する動きが、とても遅い。
高瀬 そうなんです。「え、今頃初めて?」って。とはいえ最近は盛り上がってきていて、新聞なんかでも「ESG投資」という言葉をよく見るようになってきました。
 企業の多くは環境報告書を出してます。でもそこに書いてあることはどうしてもお手盛りになってしまいます。たとえば、企業がどこかの環境保全活動をしたところで、一方で石炭火力の新設をしていたりしたらそれは気候変動にとって全体としてはどうなの、ということです。
 それで、2000年代に「E=環境」の部分を、しっかりフラットに評価することをはじめました。つまり、同じ質問書にそれぞれの企業に答えてもらって、「そうして評価できればいいよね」ということで始まったのがCDPなんです。
ーつまりCDPは、企業なり組織の、環境に対する姿勢を可視化されている。
高瀬 そうです。もともとは、「Carbon(炭素) Disclosure(開示) Project」の略でCDPだったんですが、カーボン以外にも、Water(水)と Forest(森林)も始めたので、「そうなるとCWFDP?とかって、面倒臭いよね。名前は『CDP』で」ということに3、4年前になりました。
 イギリスは金融のメッカであるわけで、本当に最初は投資家から依頼されて、3人くらいで始まったらしいです。
ー投資先についての調査依頼が発端だった。
高瀬 一応最初の質問書は2003年からということになっているので、質問書ももう15回目になります。
ー規模も3人から膨れ上がった。
高瀬 今は300人くらいじゃないでしょうか。それは回答システムや質問書をつくったりとか、あとはそれらに関わる「カーボン・プライシング」=「炭素税」とか、「排出量取引」とか。
 それらをもっと企業の内部や部門内で、投資の意思決定のために使って、そうすると「石炭火力はやっぱり採算がとれない」とか、そういう内部的カーボン・プライシングみたいな部分のリサーチやとりまとめもしています。
 他には「TCFD」ってご存知ですか?
 このあいだのリーマンショックなどの金融危機や金融の不安定化を受けて、金融の世界もグローバルになってきたから、お互いに「国内でだけじゃなくて情報共有しましょう」という、G20の下に「金融安定理事会」という、財務大臣や日銀総裁が参加する会議があります。
 そこで「気候変動って、実はサブプライムローンばりのリスクなんじゃないの?」という話になって、そこで投資の側面からは「今」よりも「将来どうなるか」という部分が大きくあります。その上で「情報開示をする方法を決めないといけない」ということで、それが 「C」limateに関する「T」ask force云々で、「TCFD」(Task Force on Climated-related Financial Disclosure)なんです。
 その初代会長にはマイケル・ブルームバーグさんがなって、6月に最終提言を出して、そこでもCDPは情報開示のトップランナーとして、連携しています。企業の戦略がパリ協定で言った「2℃以下」の世界について、備えたことをしているかどうか、についてシナリオ分析をすることなどを提言していて、それは2018年からCDP質問書でも聞くことになっています。
 TCFDは、企業が未来の気候変動や対策に備えているかの開示を求めています。パリ協定がいう2℃以下の世界で、ちゃんと儲かっている企業かどうか、という視点です。
 パリ協定には「ノン・ステート・アクター」という、「政府以外の組織・グループ」ということが書いてありますし、それで結構うまくいった部分があるんです。
 クリスティーナ・フィゲレスさんという、当時の「気候変動枠組条約」事務局長ですが、その方も「投資家と企業と都市、そしてNGOが実行力を持っている」と。政府は規制くらいしかできないんです。
ー政府には、下支えに徹していただく。
高瀬 実際にはその規制自体もなかなかできないので、彼女は投資家、企業、都市、NGOの役割を重視してらして、そのあたりからいろいろなイニシアチブが始まって、RE100も2014年に始まりました。
ーそんな世界的に大掛かりな取り組みを、日本では少数精鋭でこなされている。
高瀬 今国内には全部で9人いて、一応増加傾向ではあるんですが、ロンドンの200人、NYの100人、ヨーロッパにも50人くらいはいますので、なかなか大変ではあります。

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ーただ同時に、パリ協定はトランプ大統領は抜けてしまいますし、国連の言うことに対しても、口約束の範疇を超えられない印象が常にあります「本当に有効な手段は何なのかな?」という。
高瀬 仰る通りで、政府だけを見ているとそんな感じなんです(笑)。ですから環境NGOとしてCDPが目指しているのは、やはり投資家は具体的にお金を持っていますので、「投資先はカーボンで決めるぞ」と言ってもらって、企業は嫌でも頑張らざるをえない流れをつくろうとしています。それでがんばっている企業にお金が流れ、イノベーションがおき、そういう企業が儲かればいいな、ということです。
ー投資家の皆さんの理解はいかがでしょう?
高瀬 年金基金みたいなところは、例えばスウェーデンは、かなりしっかりやっています。翻って日本の運用は外部委託しなくてはいけなかったりして、なかなかいい運用がされているかをチェックしたり指示したりする枠組みがまだないんです。
 ただそこもずいぶん変わってきていて、「国連責任投資原則(PRI, Principles for Responsible Investment)」にも署名しましたし、少しずつ波はきています。
ーそして「RE100」は、企業の再エネ化宣言を促す目的ではじまった。
高瀬 RE100は、最初はIKEAとスイス再保険が設立パートナーとして、お金を出していただいて始まりました。
ー2014年の設立で、すでにこれだけの企業が名を連ねてらっしゃるのは、破竹の勢いに思えます。
高瀬 そうだと思います。私が関わった時は80数社だったのがもう120社くらいになっていますので、約半年でそのスピードです。企業の方から手を上げてくださるケースと、こちらから働きかけることもあります。世界にはいろいろな場がありますので、COPやクライメート・ウィークみたいなところで盛り上げつつ、という感じですね。
 意識の高い企業もあれば、「ここに入っておくことで少しでもイメージが良くなるから」とか、いろいろな企業がいます。ただ、クライメート・グループはブランディングにもうるさいので(笑)、お互いに「いい」と思って手を組んでいるとは思います。
ー日本企業の参加はRICOHと積水ハウスの2社のみ?
高瀬 先日、ASKULが加盟して、3社になりました。どんどん増えるといいな、と思っています。

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日本からはRICOHを皮切りに積水ハウス、ASKULが加盟したRE100。世界ですでに加盟している企業については、豪華に並んだロゴからご覧いただけるだろうか

ーたくさんのポジティブな動きもありつつ、しかし現場では、人や企業は資本の原理に抗えず、頭ではわかっていてもなかなか実際の転換ができない現実もあります。
高瀬 そこは本当に仰る通りです。誰にでも生活があり、その「便利さ」とかは人間の上位にくるわけです。日本は特にそういう部分が強い気もして、まだ資本主義馴れしていないといいますか、突っ走ってる感じがします。
 資本主義の元には宗教観がすごくあるので、アダム・スミスの本なんかを読んでも、「神の手」とは言うけれどもそこにはある種の善意があった上で「マーケットが最適に調整していく」ということなので、「トップには神の意志がある」ということなんです。
 だから、メカニズムの部分だけじゃなくて「WILL(意志)」の部分というか、そこが投資家にも本当はあるんですよね。つまり、公的資金なんていうものは特に、そこをしっかりしていないと民から怒られます。
 それでこそのチェック機関なんですが、日本はメカニズムのところばかり輸入している感じがある。そこは、もちろん日本流でいいと思いますので、スピリットの部分をしっかりさせられればと思います。ちゃんと、「社会を良くする方向に働くように」しなきゃいけないなと。
ー本来なら神道にしても「自然との共生」は得意分野のはずなのに、真逆に行っています。
高瀬 今朝、COPに行っていたCDPロンドンの方からメールをもらって、「日本がすごかった」と。何がかと言うと「Clean Coal(きれいな石炭)」を、政府も一丸となって言っていたと。「どうしたらいいんだ?」って。誰もが日本の代表団に会うたびに、「Coal(石炭)を何とかしろ」って、もうネタになるくらいの状況だったみたいです。
ー目の当たりにされている、国内外の落差に愕然とされることはないんでしょうか?
高瀬 それも「忖度」なんじゃないかなと思うんです。「とりあえず石炭をやっておけば、コスト意識高い感じがするよね」みたいな(笑)。環境規制がもっと厳しくなるリスクも十分あると思うんです。考え過ぎかもしれないんですが、コアがないまま何かがまわっちゃってる感じがすると言いますか。
ー企業や組織の姿勢を可視化する世界的基準をつくられているということで、日本には何が欠けているように見えていますか?
高瀬 例えばアップルさんなんかは、電力調達にも厳しい基準を持っていて、バイオマスなら社内の「木材調達基準」で、それが「不法伐採した木材じゃないか」とか、「バイオマスだからすべて良いとは限らない」という基準を自前で持っています。それから、すでにある発電所から買うのでは再エネが増えないから、なるべく新しい発電所から買う「クオリティにこだわった調達」をされています。
 加えてそれを支援する「ラベル」というブランドもあって、「ここはバイオマスもキチンとしたものだ」という認証をしてくれて、そういった枠組みまでしっかりあるんです。その上で、アップルは儲かっているから「キラキラの素晴らしい再エネを100%いきましょう」となるわけです。
 そこは会社の規模や事業の調子で、「ウチは20%キラキラで、あとはそこそこの再エネでいきます」とか、そういった消費者選択ができる枠組みがここ5年くらいで揃ってきました。
ーその枠組みそのものは、誰がつくっているんでしょう?
高瀬 一応国がコーディネイトしながら、発電された電気は系統に入っちゃうとわからなくなるので、「系統に入ると同時にトラッキング・システムに情報がいく」というシステムをそれぞれの送配電事業者さんが公的な監査を受けながら、トラッキングもやっています。
 そして、そこで見えてくるインフラに基づいて、NGOやコンサルがブランドを監査しながら構成されているということです。ですので、幾重ものチェック機能が、しかもITを使って安くできているんです。
ーなぜ向こうが当たり前にできていることが、日本ではまったくできないんでしょう?
高瀬 意識がないんじゃないですか(笑)。
ーその意識は私たち市民一人一人が持たなければいけないのか、公のトップの意識次第なのか。
高瀬 EUの場合はトップがそういう意志をもって、一国一機関が責任をもってトラッキングをやるということを、政府が任命して決めています。
 「発電源証明」という言葉があります。
 英語では「Guarantee of Origin」というんですが、発電がどこからきているかをトラッキングすることが、法律文章にしっかり書いてあるんです。
ー仰ったような「発電源証明」は、みんな電力が「顔の見える電力」として、大前提にしているところです。
高瀬 そこは、本来なら国にインフラとして当たり前にやっていただいて、電力会社はそこに乗っからせていただきたい部分ですよね。そうすれば、会社ごとにブランディングだけに集中できるようになるわけです。
 日本の場合は、それどころか最近まで、再エネに対する差別がすごかったです。
 私はずっと温暖化の研究をやってきました。それは、コンピューター上で気候と経済、そして影響モデルを組み合わせて「この政策をうったらこうなります」とか、逆に「この程度の温度上昇に抑えるためにはこうやらないとダメです」といったことです。
 その頃から、再エネは安くなるだろうし、仕組みとして安くならない理由もないし、20年来ずっと再エネを推してきました。でも、当時の指導教官はエネルギーの世界のドンの先生で、「再エネなんて高いからダメだよ」と。
 それから、電力会社の人は「中央で大きな発電所をつくって上から分配する」系統モデルでずっとやってきたので、ベースがその発想なんですね。
ー思考回路が中央集権と言いますか、、
高瀬 どうしても「上が下をコントロールする」モデルが大きい。でも、そうじゃなかった時代もあるわけで、別にそれが文化の根底まで支配していないとは思います。電力システムがたまたまそういう技術であった時代にデザインされたままになっていて、そう考えると「移行」や「変化」が下手なんですね。

 

後編へ続く

 

(取材:平井有太)
2017.11.21 tue.
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高瀬香絵

1972年広島生まれ。幼少期は栃木の田舎で自然に囲まれながらすごす。中学・高校と米国に交換留学を経て、当時できたばかりの慶応湘南藤沢キャンパスにて「温暖化は私が解決する」と決意して入学。大学から大学院ではバレエやテコンドーに熱意を注ぐかたわら、環境税を経済モデルで分析したり、エネルギーシステムを学ぶ。修士取得後、日本エネルギー経済研究所にてエネルギー需給の将来予測や核融合のプロジェクトに係る。その後テコンドーに専念するために研究所を退職、世界を放浪。夢破れて東京大学新領域創成科学研究科にて博士を取得。その間に2児の母となる。博士取得後は科学技術振興機構低炭素社会戦略センター、東京大学工学系研究科にて研究員。2015年よりCDP参画。


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