2017.02.03 Fri.

  高円寺に、ちょうどメキシコの国境の町に仕掛けた作品が話題のアート集団Chim↑Pomが運営するアーティスト・ラン・スペースがある。そこで昨年末、約一ヶ月間開催されたアート展「BIOCRACY(ビオクラシー)」には、日本初であったり、世界初とされる試みが詰め込まれていた。
 そこではみんな電力も大きな役割を担い、昨年4月の電力自由化後初めて、電力を取り込んだ作品が展示された。聞き馴れない言葉かもしれない「電力ネーミングライツ」の作品はadidas Originalsがコレクト(購入)し、これは世界初の事例と言える。
 展示と同タイトルの著書『ビオクラシー』(SEEDS出版)を昨年6月11日に上梓し、本展示も手がけた平井有太氏。「『ビオクラシー』の世界観をアート展に」と、平井に声掛けをしたChim↑Pomのリーダー・卯城竜太氏。そしてChim↑Pomの紅一点エリイの夫であり、歌舞伎町の元カリスマホストかつ事業家である手塚マキ氏。
 電力を当たり前に含みながら、「前衛を生活に」と謳っていた「BIOCRACY」展。3者によって実現した鼎談を、3回に分けて掲載する。
 話はまず、ビオクラシー展オープニングで「金沢21世紀美術館で観たスーパーフレックスの作品を思い出した」と語る、手塚氏の言葉から始まった。

 

手塚 スーパーフレックスの作品は、「会場にいる人を介して空気が混ざって、その場で菌を培養する」みたいな作品でした。
卯城 それが、なんで似てるんだろう?(笑)
平井 でも、発酵とか醸造は、行くところに行けば、今完全にキてる分野ですね。
手塚 そうそう。
卯城 「そもそも、なぜ今(平井)有太マン展なのか」という前に、なぜせいちゃん(手塚氏のあだ名)が、スーパーフレックスと今回の展示の類似性を見出しているのか。言われてハッとした(笑)
平井 僕はスーパーフレックス全然知らなかったんですが、ちょっと調べたら、確かにいきなりシンパシーは感じて(笑)
卯城 僕も詳しくないですが、前に一度スーパーフレックスをリサーチするのにハマって。彼らは世界中の、割とポリティカルなものをテーマにしたがるアーティストにしてみると、ものすごくリスペクト受けているコレクティブ。
平井 デンマーク発の3人組。
卯城 例えばコンテンポラリーアートとアクティビズム、ストリートアートは混じったり混じらなかったりするんだけど、JRバンクシーとなるとコンテンポラリーアートからはアウトサイドだって主張が強い。でも、スーパーフレックスはそのポジションが優れてて、ちょうど”ミドル”な感じ。ストリートアートみたくスタイルにこだわっているわけではなく、かといってコンテンポラリーアートみたく頭でっかちじゃなく実践的。ほんとにいろんなことをやってるんです。
 逆にロゴや象徴的なアイコンのいじり方とかの感覚はストリートアートっぽくもある。他にも美術館にゴキブリのコスチューム着て観に行くとか。それはゴキブリには人類史よりよほど長い歴史があるってことで、それで「美術作品の寿命の長さを考え直す」とか、そういうギャグッぽいこともある。作品には歴史書とか契約書、通貨もガンガン使って銀行をつくっちゃったり、ソーシャルなプロジェクトもすごく多い。
 しかもそれを「ワーク」と言わずに「ツール」と呼んだりする。それはたぶん、社会的に何かを”変える”だったり”おこす”ためのツールということで、そう考えるとたしかに有太マンさんの作品は全部「ツール」っぽくて。
 「本当に使える」とか「活かせる」という、そういうものとのシンパシーがあって、そこにグラフィティ的なこと、アートと政治的なことの中間みたいなバランスまで、確かに似てるなって。言われるまでまったく忘れてたけど(笑)
平井 「たぶん自分と近い」と思う部分は、それこそ「生活が前衛」ということでした。自分なんかはやってることを「アートなんだ」と捉えてやってはいるけれど、「わかってもらえないだろうな」とも思いつつ、同時にそこに確信はあって。
 そこが、福島に行った時、ああいう大変な状況下で、研究者なのかメディアなのか、誰がどこでどう機能してるのかを見てみた時、結局はそこにいたお母さんたちや農家さんの日々の生活があまりに現場過ぎて、誰がどこで何を言おうと届いてなかった。

平井は、福島市内の全農地をベクレル測定する「土壌スクリーニング・プロジェクト」事務局として、約3年現地に住んだ

 そういう意味で「生活が前衛」、つまりは「日々日常的にやってることが、結局一番大事」、「未来を切り拓ける力って、そこにある」という、それまで漠然と思っていたことが、確信に変わったんです。
 だから今回Chim↑Pomから個展の話をもらった時、いい意味で迷いなく、自信を持ってそのテーマで野菜を売ったり、エネルギーを絡めるとか、自分たちが日々触れるものが「アートになるはずだ」と、制作できた。

二本松市の有機農家・大内督さん。界隈の新聞に宣伝チラシを折り込み、会場入口で作品として、大内さんの野菜を販売した

 そこはスーパーフレクックスだけじゃなく、オラファー・エリアソンにしてもそう見えて。キッチンをつくってそこで起きる人や文化の交流が作品だと言ってる人が、今世界のトップアーティストの一人であると。そうであるなら、さらに「自分の直感と判断、間違っていなかった?」と思えた。
手塚 リーダー(卯城氏=Chim↑Pomのリーダー)は、何で有太マン展をやろうと思ったの?
卯城 有太マンさんがやってきたことは、ジャーナリストとしての動きとしてもオリジナリティと妙な哲学を感じて面白いと思っていたし、その「突撃取材感」とか(笑)でも、そういうジャーナリスティックだったりサブカルチャーだったりで面白い人たちってたくさんいるじゃないですか。そういう人たちの動きももちろん面白いとは思ってるんだけど、何故だかみんな何となくアートと距離を置きたがるでしょう?
 でも、有太マンさんの場合は「自分のやってることがアートなんだ」という確信があって。それは”アートピース”というより、福島に行くことも含めて「アートは人生そのもの」という。
 そうして、何年か客観的に有太マンさんの活動を客観的に端々で見ていると、選挙にも立候補して「ヨーゼフ・ボイスみたいだな」と。それに「選挙に出る」というのも、ネオダダの時代なんかに、秋山祐徳太子さんていう人が都知事選にギャグで出たことがあって。まあ秋山さんと同じく落選したんだけど(笑)
平井 「選挙をアートにする」ということを明確に言って、票も結構とって。
卯城 まあでも、あれはあれでギャグというか、ナンセンスというか。でも有太マンさんが秋山さんよりボイスに近いと思ったのは、本気なわけ(笑)出る姿勢が。
平井 でも、それこそせいちゃんが出たら、受かると思うけど、、
手塚 (笑)
卯城 前衛のナンセンスで、ダダッぽく社会に介入していくタイプじゃなく、その”ガチ感”が「すごくいいな」と思ってた。それがボイスの「社会彫刻」を想像させたの。社会彫刻も「みんなアーティスト」と言っていて、「みんなで社会を彫刻してるんだ」って。つまり「アーティストがつくるピースとは違う」アートの概念を提唱していた。
 だって、このキタコレを運営するにあたって、面白いアートピースをつくる人たちをピックアップしたって意味ないじゃない?それは他のコマーシャルギャラリーがやればいい。

戦前からあるいわくつき物件を、気鋭のファッション・デザイナーとChim↑Pomがシェアして運営しているのが「Garter」

 ちょうど今、コンテンポラリーアートは変わり目になっていて、例えば「アートパワー100」みたいな、毎年やってるアート界の影響力ランキングがあるんだけど、ランキングすること自体どうなんだとは思いながらも、この10年で大きく変わったその動きには一見の価値がある。いっときは1位だったダミアン・ハーストが圏外になって、村上(隆)さんみたいな人もいなくなって、その代わりに台頭してきた若手の人たちがいるわけ。
 今年のその中からアーティストだけを抽出してみると、1位がヒト・スタヤルっていうベルリン在住の女性アーティスト。この人は映画から来ている人なんだけど、アートワールドの政治的欺瞞、偽善、、それは例えばめっちゃ武器商人からお金をもらってるとか、そういうことを痛烈に批評したりする。かと思ったらネットを巡るアートの第一人者でもあって、色々ラディカルな評論なども書いている。
 2位がアイ・ウェイウェイ、3位が(ウルフガング)ティルマンスで、ティルマンスもイギリスのEU離脱やトランプに対するアクティビティが影響力を持ったから。
 一番わかりやすいのが、実は4位のシアスター・ゲイツっていう黒人のアーティストで、この人はシカゴの陶芸家なの。つくってるものは普通に陶芸なんだけど、それと別件でシカゴの空き物件を再利用してコミュニティスペースをつくっていくっていうプロジェクトをガンガンやっている。DIYなんだけど、デベロッパーとかと組んだりもして。シカゴの黒人暴動や荒れた街並みの歴史と絡めながら、数字はハッキリしないけど、何十軒もおさえてるのかな?めちゃくちゃデカいアートセンターなんかもつくってて、個人の陶芸家なのに、こうなるとシカゴのアートワールドは彼なしでは語れなくなる。
手塚 へー!
卯城 良い作品をつくるのは当たり前なんだよね。けど作品作りっていう個人的な行為とは別に、今は多くのアーティストがアートっていうのを実社会にどう影響させるのかって実践に取り組み始めている。よく「プラクティス」って言われるんだけど、そういう流れのなかに有太マンさんのアートはあると思うよ。
 それは今までの自己満足的で貴族的なアートへのプロテストでもあって、アートってどんなに面白くても、使い勝手が悪いし、すごく自己中なもの。それ自体はもちろん悪いことではなくてアートがアートらしくあるための条件でもあるんだけど、それをアート村の中で自慢しあっているだけでは、何かが虚しい。
 じゃあそれを「どう実践的に社会に浸透させることができるか」ということが、この10年くらいのテーマになっていて。まあ、これも流行りの一環だから、さっき言ったランキングは10年後にはまた刷新されて、プラクティスへの反省も反映されるんだろうけど、とにかく今のその変わり目で、有太マンさんのやってることとかは、アートを巡る日本における面白い一つだなと思ったの。

写真は、「みんな電力」が煌々と光るネオンの前での一枚のはずが、明るすぎて写らず、、

平井 そういう存在は、他にはいないんでしょうか?
 というのも、自分は25の頃5年住んだNYから帰国して、当時「ここで真面目にアートやっても機能しないな」と圧倒的に思った経験があって。そういう思い込みで国内のシーンを真面目に追いかけてこなかったこともあって、知らないだけで、実はいるんじゃないかな、と。
卯城 ある意味でどこかみんな真剣にアートと向き合い過ぎてきて、最初はアートと実世界にたいしてそういう態度で臨んでいたとしても、キャリアを積んでいくうちに、アートワールドに自ら回収されていく。
平井 「アートの世界における何らか」になっていっちゃう。
卯城 絵心がすごくついていっちゃうとか、、作品の良し悪しの話とは100%は重ならない話だから、まあそれでいいんだけど(笑)
 何にしても有太マンさんの信じてきたアートが成立する状況は整ってきて、だから「そういう人が増えると」もっと幅が出て刺激的な世界になるのにな」と思っていて。
 それで「わかるな」と思ったのは、今日せいちゃんを呼んで話すとかも、アーティストとかアートワールドの人というよりも、社会実践とか社会彫刻の、そこは今回「ソーシャルスケープ」って呼んでる部分ですよね。面白いことやってる人を見続けるというか、そういうことなんだよね?

人々が語る言葉、想いから社会のかたちを浮かび上がらせる「ソーシャルスケープ」は、今回平井が提示した制作手法

©平井有太 Courtesy of the artist and garter gallery, Tokyo. Photo by Yuki Maeda

手塚 なるほどね。
平井 そこは本当にそうで、今日せいちゃんに来てもらったのも、、
手塚 確かに、あんまり理由がわかってなかった(笑)。
平井 「オレでいいのかな?」くらいの方が良くて、その立場から、ビオクラシー展の感想を伺えたらと思って。
手塚 普通に「これが何でアート?」、「アートって何だろう?」ということをまず、全部を観てすごく思ったかな。「これがアートというもの?」というクエスチョンは残っていたけど、今の話を聞いて「なるほどな」、今日呼ばれたことに関しても「なるほどな」と思った(笑)
 さっきのスーパーフレックスの話にかぶるかもしれないけれど、今回のビオクラシー展で思ったことは、「生活が前衛」という話に繋がる。例えばアイ・ウェイウェイがデモして「国に文句を言う」とか、他にも「政治を変えろ」みたいなアーティストがいて、もちろんアーティストじゃない人もそれはあるけど、それをただ眺めるのとは違って、野菜が売っててそれは食べることだとか、ここでは、自分が気づかなければ実は参加している話を丁寧に教えてもらえている。
 スーパーフレックスの場合は、自分の吐いてる息が吸われて、そこで菌を抽出されて、確実に自分も参加しちゃってる。つまり意識的に参加させられちゃうんだけど、ここでは、もともとすべてにおいて、「自分も実は参加してるんだ」ということに気づかされたという。
平井 そこまで、初日のあのオープニングのバタバタの中で感じてくれたんですね、、!
手塚 参加できないアートは自分にとって入ってこないから、僕の中でアートとして解釈したのは「あ、参加できたな」ということ。電力のことを考えたし、福島のことも「どうなんだろう」って思ったし。それこそ「この野菜、食べていいのかな?」とか。
平井 「間違いなく測ってるって言ってるぞ」と(笑)。
手塚 それを考えながら、りんごをかじってみたり。だから「参加できた」のが僕にとってのアートということは、あったかもしれないですね。

ー 第2回目に続く ー

 

jose

福島市の果樹農家・斎藤隆雄さん。事故後行政に先駆け、率先して放射能対策に動いた農家集団「ふくしま土壌クラブ」の一員

jose

卯城竜太(Chim↑Pom)/Ryuta Ushiro

Chim↑Pom 卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀が、2005年に東京で結成したアーティスト集団。時代のリアルに反射神経で反応し、現代社会に全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品を次々と発表。映像作品を中心に、インスタレーション、パフォーマンスなど、メディアを自在に横断しながら表現し、世界中の展覧会に参加、さまざまなプロジェクトを展開する。近年は自作の発表だけでなく、同時代のさまざまな表現者たちにも目を向け、2015年アーティストランスペース「Garter」を高円寺にオープンし、キュレーション活動も行う。また、東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域内で、封鎖が解除されるまで「観に行くことができない」国際展「Don’t Follow the Wind」の発案とたちあげを行い、作家としても参加、同展は2015年3月11日にスタートした。
著作に『Chim↑Pomチンポム作品集』(河出書房新社、2010年)、『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』(阿部謙一との共編著、無人島プロダクション、2009年)、『芸術実行犯』(朝日出版社、 2012年)、『SUPER RAT』(パルコ、2012年)、『エリイはいつも気持ち悪い エリイ写真集 produced by Chim↑Pom』(朝日出版社、 2014年)、『Don’t Follow the Wind: 展覧会公式カタログ2015』(河出書房新社、2015年)がある。

jose

手塚マキ/Maki Tezuka

経営者/ソムリエ 中央大学理工学部中退後、歌舞伎町のホストクラブで働き始める。入店から一年後、同店のナンバーワンとなる。2003年に独立後、現在は歌舞伎町を中心にホストクラブ、BAR、飲食店、美容、ワインスクールと幅広い分野で活躍。 ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を中心となって立ち上げ、「僕たちにできること」をテーマにホスト独自の社会的貢献を目指し、定期的に街頭清掃活動を行う。2015年2月には様々なカルチャーを紹介しているPASS THE BATON表参道店で、ホストクラブの文化を6000本の空き瓶を用いたアート作品で表現し、ホストクラブを無料体験ができるエキシビジョンを開催。2015年12月歌舞伎町商店街振興組合のビル建て替え計画に伴い、解体までの期間限定で「歌舞伎町の為になる事を」の街からの依頼で24時間ネット配信スタジオTOCACOCANを開設。

jose

平井有太/Yuta Hirai

http://chimpom.jp/artistrunspace/

 

(取材:ENECT編集部)
2016.12.15 thu.


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