2017.09.01 Fri.

 8月30日、重要な書籍が岩波書店から刊行された。
 カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『This Changes Everything: Capitalism vs. The Climate』(2014)の全訳書・日本語版がそれである。
 和訳表題は本記事タイトルであり、私たちが今日のエネルギーを考える上で重要な、世界的課題がここにある。そして、下記にこれから引用する「訳者あとがき」にあるように、日本に住む私たちの誰も、その問いからは逃れられない。
 ENECT(エネクト)が本著を紹介するのは、クラインの言葉を引いた「訳者あとがき」の一文、

「気候変動という人類にとっての危機が、大きな歴史的チャンスだということに尽きる。破滅的な気候変動を回避するためには、もはや政府の介入によって規制を強化し、化石燃料に基づく中央集権的な経済から、地方分散型の再生可能エネルギーに基づく経済へと移行する以外に方法はない」

に依る。
 私たちが当たり前に日々の生活で使う電気は、社会のストラクチャーをつくることに直結する。クラインは「あらゆるイデオロギーを超えて私たちは繋がり、地方分散型の、再生可能エネルギーに基づく社会への移行が必須になる」と続ける。
 以下、これがすべてではないが「訳者あとがき」から引用して、すぐそこにある未来を伝えてくれる一冊『これがすべてを変える』の紹介とする。
 

上下巻背表紙

訳者あとがき

  本書は出版直後から大きな反響を呼んでベストセラーになり、すでに二五以上の言語に翻訳されている。『ニューヨークタイムズ・ブックレビュー』は「あふれんばかりの熱意と重大性をもつ本書は、論評が不可能なほどだ。……『沈黙の春』以来、地球環境に関してこれほど重要で議論を呼ぶ本は存在しなかった」と評し、インドの作家アルンダティ・ロイは「ナオミ・クラインは今日の最大かつ最も差し迫った問題に、その鋭く強靱、かつきめ細かな知性をもって取り組んでいる。……彼女は今日の世界で最もインスピレーションに富んだ政治思想家の一人だ」と評している。

 

  タイトルのThis Changes Everythingには二つの意味がある。ひとつは、私たちが今のままの生活を続けていけば、気候変動がこの世界の「すべてを変えてしまう」というネガティブな意味。そしてもうひとつは、それを回避するためには、「すべてを変える」ほど根源的な変革が必要だというポジティブな意味である。本書は、九七%の科学者が認めている気候変動という事象がまさに〝今、ここにある〟危機だという認識に立ったうえで、この問題の根本原因が成長神話にがんじがらめになった資本主義のシステムにこそあり、それを解決するには現行の経済システムとそれを支えているイデオロギーを根底から変える以外に方法はない、という結論を導き出している。

上巻表紙

  本書の前半(第一部・第二部)では、なぜここまで気候変動対策が遅れをとってしまったのかについての詳細にわたる検証が行われると同時に、気候変動を否定する右派の会議や、人工的に気候システムに介入して温暖化を緩和するという地球工学の専門家の会議への潜入ルポもあり、また化石燃料脱却をブチ上げる起業家ブランソンの言行不一致や、環境保護を掲げながら化石燃料企業と結託する大規模環境保護団体の偽善も暴かれる。まさにジャーナリストとしての面目躍如である。

  だが圧巻はむしろ後半、第三部以降であろう。気候変動対策を先送りし、問題を深刻化させてきた規制緩和型資本主義システムの暗部を、これでもかとあぶり出す前半の悲観的なトーンから一転して、ここでは化石燃料を基盤にした経済・社会のあり方そのものにノーを突きつける草の根抵抗運動が世界各地で展開し、拡大しつつあることを、これまた綿密な現地取材に基づき、希望の兆しとして報告している。近年、北米を中心にブームになっているオイルサンド採掘やフラッキング(水圧破砕)による天然ガス・石油の抽出は、従来の化石燃料採掘にも増して温室効果ガスを多く排出し、有毒物質による環境汚染の危険も大きい。自国カナダでの先住民を中心とする抵抗運動をはじめ、北米各地で化石燃料経済からの脱却を求めてパイプライン建設やオイルサンド掘削リグ用の巨大装置の輸送、採掘された石炭を輸出するためのターミナル建設などを実力で阻止するために闘う地域住民の姿が共感をもって描かれると同時に、これらの運動が点ではなく、SNSなどを通じて相互に結びついてネットワークを形成し、化石燃料企業にとって大きな脅威となりつつあることも強調されている。また掘削現場での闘い以外にも、化石燃料企業から投資を撤退するダイベストメント運動が急速に広がっていることも明るい材料のひとつとして取り上げられている。

下巻表紙

  縦横無尽な取材と旺盛な探究心をもとに、広範囲にわたる内容をカバーする本書でクラインが最も訴えたかったのは、気候変動という人類にとっての危機が、大きな歴史的チャンスだということに尽きる。破滅的な気候変動を回避するためには、もはや政府の介入によって規制を強化し、化石燃料に基づく中央集権的な経済から、地方分散型の再生可能エネルギーに基づく経済へと移行する以外に方法はない。そしてそれは同時に、人々の生活の質を向上させ、国内の経済格差、南北の格差の是正をもたらし、より公正な経済と民主主義の活性化を実現するという、一石二鳥にも三鳥にもなる結果を生むというのである。

  だが、そうした根本的な変化を起こすために何より必要なのは一人ひとりの意識の変革、生き方の変革であるのは言うまでもない。その意味で本書は、読者一人ひとりに宛てたメッセージでもある。前作『ショック・ドクトリン』で見せつけた冷徹な考察と鋭い筆致は今回も遺憾なく発揮されているが、本書ではリサーチと執筆にかけた五年間が、私生活においては不妊治療とたび重なる流産、そして妊娠・出産へと至るプロセスでもあったことが打ち明けられている。不妊という体験が自身を自然から疎外するものではなく、むしろ自然との一体感を感じるきっかけとなったとクラインは言い、広大な生命共同体の一部である人間が、ほかの生物たちとともに新しい生命を生み出す困難な闘いに挑んでいることに気づいたというくだりには、深く心を打つものがある。地球が私たちの子孫、そのまた子孫の代まで快適に住みつづけられる環境であるために今、何をなすべきか。本書の突きつける問いは重く、また誰ひとりその問いを逃れることはできない。
  ナオミ・クラインは一九七〇年、カナダのモントリオール生まれ。両親はベトナム戦争に反対してアメリカからカナダに移住した。すでにジャーナリスト、作家、活動家として世界的な名声を獲得しており、『ガーディアン』、『ニューヨーク・タイムズ』、『ボストン・グローブ』、『ネーション』、『ニューヨーカー』などの新聞・雑誌に寄稿するほか、調査報道サイト『インターセプト』の上級特派員も務める。本書執筆後はとりわけ気候変動問題に関する活動に力を入れており、カナダの「リープ・マニフェスト」(今世紀半ばまでに公正な基盤に立って化石燃料から脱却するための計画)の作成に関わったほか、気候変動問題に取り組む国際環境NGO「350org.」の理事も務める。また二〇一五年には、映像作家で夫のアヴィ・ルイスとともに本書と同タイトルのドキュメンタリー映画を制作している。彼女の活動の一端は、自身のホームページやフェイスブック、ツイッター、あるいはニューヨークの独立系メディア「デモクラシー・ナウ!」の日本語版サイトでも知ることができる。

下巻裏表紙

 

(取材:平井有太)
2017.09.01 fri.


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2017.9.1 Fri.