2017.05.19 Fri.

  1000年以上の歴史を背負う「塩キャラバン」に、ナショナルジオグラフィックよりも肉薄した映画『Caravan to the Future』。トップ写真は、キャラバンに参加しながら、「アラジラ」というナツメヤシ、ヤギのチーズとミレットのお粥を歩いて食べるアリサ・デコート豊崎監督だ。
 誰にとっても、同行することだけで過酷なキャラバンの在り方を、なぜフィルムに残そうと思ったか。そして、そこに込められた何が、現代の私たちの生活に繋がっているのか。遠い国で行われていることでもあり、しかし間違いなく現在進行形で、私たちと同じ時代に受け継がれていることでもある。
 今月末には、映画だけでなく、サハラ砂漠で生きる民の希望を奏でる、本物のトゥアレグ族バンド「TAMIKREST」が来日を果たす。渋谷UPLINKや橋の下音楽祭他、京都、代官山、横浜での公演をmicroActionと仕掛ける、アリサ監督に聞いた。

 

arisa

ー監督はキャラバンに何を見出し、なぜ語り継ごうとしているのでしょう?
アリサ 例えばあのあたりで採れるウランは、フランスの原発に使われてきました。原発は、地域に少しはお金が入るかもしれないけれど、「自給自足」という側面は、ずいぶん変わってしまう。
ー大企業や、中央の経済に依存するという状況のことですね?
アリサ 塩キャラバンにあるものは、ある意味、魅力以上のものですよね。
 一つは、私はやっぱりその「自給自足」にすごく憧れてきたんです。そして「自由」は、自給自足の中にあるんです。私はその自由に一番憧れてきました。トゥアレグ族は、実は「自由な民族」と呼ばれてもいるんです。
ー「自給自足」、「地産地消」、「循環型」といったことは、エネルギーでも大切とされるキーワードです。

 

arisa

テネレ砂漠をずっと渡って、ビルマ·オアシスに着くと、女性の派手な色がとても印象的だった
©alissa descotes-toyosaki

アリサ 自給自足の中にしか、本当の自由はないんじゃないのかな?「Freedom」っていろいろな意味がありますが、「本当の自由」は何にも依存しないで、自分の力だけで生きていく、食べていくというのは、実はものすごく自由なことなんです。
ーそれはどこで学んだことですか?
アリサ たぶん旅をしながら見たんだと思います。私はパパと一緒に、小さい時から変な、普通の旅行者が行かないようなところに行ってたから(笑)。そこでいろいろなライフスタイルを見て、その多くはいわゆる「貧しい」ところだったけど、私には全然貧しいように思えていなかった。当時自分は子どもだったし、子どもの視点てすごく素直なので。4、5歳からそういう旅をしてきて、その時の想いとか、旅の教育は大きいですね。

 

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テネレ砂漠を出て、遊牧キャンプに戻る塩キャラバン。休憩してからまたサヘル地域へ再出発する
©alissa descotes-toyosaki

ーお父さんは何者ですか?
アリサ 冒険家(笑)。80年代のパプア・ニューギニアやパキスタンとか、でも特にアフリカが多かった。パパはフランス人でアジアにずっと憧れてたけど、ハートはアフリカにあったような気がします。それで私もアフリカに一番魅かれてきたの。中でも、中央と西アフリカがメインだったかな。
 アフリカはやっぱり人間のはじまった場所で。
 私はそれは、言葉だけじゃなく、本当にそういう風に感じているから、国ごとじゃなくて、大陸として特別だし、強烈なところだと思います。

arisa

塩キャラバンは16時間も止まらないため、追いかけなければならない
©alissa descotes-toyosaki

ー塩キャラバンから見る砂漠の景色は、すごくキレイなんだと思います。
アリサ 砂漠は美しいです。どんなに疲れてても、夕方に暑さが落ちてくると、光がものすごく美しく反映して、そこからとってもいいエネルギーがもらえて、それで毎日再生できました。本当に、毎日夕方まで死にそうで、夕方になると再生して、それでまた翌日という繰り返しでした。
 砂漠は不思議なところです。甘く見ると死んじゃうし。私も、途中で雨が降らなかったらヤバかったかもしれない。

arisa

この季節に30年も降らなかった奇跡の雨。キャラバンの商人にとってはあまり良い兆しではなかったが、私は正直、助かった!
©alissa descotes-toyosaki

ー映画では、その雨も何十年で初めて降ったと言っていましたね。
アリサ そうなんです。それで、キャラバンが私のことを「ちょっと、魔女がいるんじゃないか、、」って(笑)。しかもみんなは喜んでなくて、あれを恵みの雨だと思ったのは私だけで。だって異常気象は、キャラバンを続けてきた人たちにしてみると逆に心配なの。雨は往復で3回も降ったんだけど、毎回喜んでいた私に対して、みんなは「これじゃ塩が溶けちゃうじゃないか」って心配をしていて。そもそもキャラバンには、女性はまったくいないんです。
 トゥアレグ族は、何というかみんな男らしい男というか、ジェントルマンです。でも彼らは実は、自分たちの独立のため、何回も反乱を起こしてもいます。フランスが植民地化しようと入っていった時も必死に闘いましたし、独立後も頻繁に反乱を起こしたり、そういう、服従しない人たちなんです。

 

arisa

キャラバンの若者。トゥアレグ族は、男性がターバンで顔を隠し、砂や風を防止すると同時に、感情を表さない文化がある
©alissa descotes-toyosaki

 そして、塩キャラバンはそういう中でもずっとやり続けてて(笑)。日本語にすると、「犬が吠えてもキャラバンは通る」という諺があって、だからこそ1000年も続いたという。
 彼らは本当に頑固というか、誇り高い人々なんです。

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5日間の砂漠の後やっと井戸にたどり着いたキャラバン。地下から汲み出す水は茶色いけれどとても美味しかった。Aman Iman = 水は命
©alissa descotes-toyosaki

ー塩キャラバンの今、そしてこれからは?
アリサ 例えばトラックで塩を運ぶ仕事も、あっていいと思うんです。ただ塩キャラバンも一緒に、そのままずっとあればいい。塩を特に大事にしている人たちがいて、その人たちがキャラバンの塩を高く買って、それ以外の人たちはトラックで運ばれた安い塩を買えばいい。
 私たちもスーパーに行けば、選択肢があるでしょう?それと同じで、悪くないことだと思います。ただどちらかがあることでもう片方を潰してしまうんであれば、それは非常にもったいない。
 トゥアレグの遊牧民のアイデンティティは遊牧民。それはずっとそうだと思います。塩キャラバンじゃなくても、どこかで心はノマド。でも新世代の若者は一度街に入って、そこに本当に染まってしまったら、遊牧キャンプに戻ることは難しい。
 「じゃあ、どうしたらいいか」と言うと、行き来するしかない。それができてる人たちはバランスがとれてて、街ではトヨタの四駆を持って、キャンプの方にはラクダを20頭とか持っている。それを見てると「このかたちかも」と思ったりするんです。

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車の遺跡とすれ違うキャラバン。どんな丈夫な車でも砂漠にまけるから、今でもキャラバンがあるわけだ
©alissa descotes-toyosaki

ー時代の最先端と文化のルーツを共存させる。
アリサ さっき話した支援プロジェクトも、上手くいくかわからないけど、キャラバンを現代化させるということは、そういうことです。経験として面白いし、上手くいくかもしれない。最先端の何かを取り入れることで、キャラバンが強くなる可能性があるんじゃないのかなって。
ーまさに「to the Future」。
アリサ 未来に向かっていくしかないんです。こんな映画つくったんだから(笑)。そうじゃないと、ただのアーカイブになってしまうので、もっと続いて欲しいです。塩キャラバンの展覧会もやりたい。写真や映像はたくさんあるし、彼らの塩を展示して、試食も、買うこともできる。

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サヘル地域のたくさんの市馬で塩とナツメの実を売るキャラバンの風景
©alissa descotes-toyosaki

 あとは、これからラクダオーナーも募集していこうと思ってます。今ちょうどラクダはすごく安くて、自分の名前も付けられます(笑)。
ーいくらくらい?
アリサ 4万円。安くない?10年前とかは倍でした。ラクダの価値が落ちてるのは良くないことなんだけど、そこはチャンスでもあるから。それでオーナーは、キャラバンに来れば、マイラクダに乗って旅に参加できるんですよ。

arisa

noda

Alissa Descotes-Toyosaki

1970年、パリ生まれ。
日本人の母とフランス人の父を持ち、二つの文化の間を旅しながら育ったデコート・豊崎アリサは、ジャーナリストという職を自らの生き方として定めることとなった。
2006年にトゥアレグ族の遊牧生活を支援するためにサハラ・エリキ協会を設立。以降、通訳またはキャラバンの一員として旅の日記を綴っている。
彼女のジャーナリストとしての活動は2011年の東日本大震災を機に本格化。現在はパリ、東京、ニジェールという三つの拠点を行き来しながら、激動する現代と人類の生き残りに焦点を合わせ、ニジェールのウラン鉱山などよりスケールの大きいルポルタージュに挑み、フランスや日本に発信している(GEO MAGAZINE、DAYS JAPANなど)。

 

(取材:平井有太)
2017.04.13 thu.


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